【漫画】記憶喪失の彼氏が彼女に再び恋をして……「記憶」と「愛」を辿るSNS漫画『テンポラリ・メモリー』が美しい

「人格とは何か?」という妄想

――『テンポラリ・メモリー』は記憶喪失になった恋人がメインのお話しですが、なぜこの設定にしたのですか?

のぼるじん:昔から「人格とは何か?」と妄想しており、「人格というシステムは記憶によって日々更新されているため、人格と記憶は不可分だな」と思っていました。そして、「人を好きになる、愛するということは、人格というシステムを愛しく思うこと」と考えています。

――確かに人格と記憶はセットで考えられますね。

のぼるじん:「人格と不可分たる記憶というのは大事なものであり、それが失われたり自己認識と食い違うとどうなるのだろう」という思いから着想を得ました。また、最近の挑戦として、一般的に理想とされる相思相愛という関係が、逆にそれゆえに苦しくなる構造を描きたく、今回は「相手が自分のことを好きなのに、それは自分じゃない」ということを軸にしました。

――登場人物の描き方が重要になる話しですが、まず倫太郎と早紀はどのように作り上げましたか?

のぼるじん:倫太郎は“寝起き直後のボーっとした状態の誰でもない人”というイメージで描きました。早紀は、“記憶をなくした恋人を優しく支え、恋人の帰りを待つ人”というイメージです。

「あれ、泊まってたっけ」というセリフの意味

――倫太郎は記憶を失っていますが描くうえで注意したことは?

のぼるじん:「記憶を喪失した人が何に不安を感じるのか」「周囲との接し方それ自体に性格のようなものが表れるのでは」と妄想しながら、「薄っすらと記憶喪失前の人格を感じ取れるんじゃないか」と思って描いています。

――「記憶喪失中の自分が記憶を取り戻した時、今の自分はどうなってしまうのか?」という視点は興味深かったです。

のぼるじん:設定と登場人物のメンタリティから膨らませ、そういった視点を加えました。

――「あれ、泊まってたっけ」というセリフで記憶が戻ったことを表現したシーンは素敵でした。記憶が呼び戻ったことを伝える表現はいろいろ考えられますが、なぜこのセリフを選んだのですか?

のぼるじん:記憶が戻ったことが一言でわかってもらえるように言葉を選びました。かつての倫太郎が話し過ぎると読後感に違和感を覚えさせてしまうため、なるべくかつての倫太郎を登場させないように調整しています。

――セリフで言いますと、セリフ量は少なく、セリフのないカットも多かったです。セリフ量を少なくした狙いは?

のぼるじん:記憶喪失した主人公とその恋人というモチーフは情報量が多く、油断すると文字数が増えかねません。なるべくページ数を増やして絵で伝えるコマを増やし、できるだけ読みやすくなるように構成しています。

――最後に今後の活動について教えてください。

のぼるじん:しばらくはこれまで通り半年に1本ペースで漫画制作を続ける予定です。最近は『コミティア】に参加しているので同人誌を手にとっていただけると幸いです。「いつか雑誌に掲載してもらえると良いな」と思っています。あと短編集の出版が夢です。

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