大ベストセラー42年ぶりの続編『続 窓ぎわのトットちゃん』はどんな内容か? 黒柳徹子が伝える現代へのメッセージ
戦後最大のベストセラーといえば、1981年に出て世界累計発行部数が2500万部を超える黒柳徹子の『窓ぎわのトットちゃん』だ。『徹子の部屋』の司会で知られる黒柳徹子がまだ子供でトットちゃんと呼ばれていたころ、トモエ学園という小学校に通って見聞きしたできごとが綴られていて、好奇心旺盛なトットちゃんと、それを見守る優しい校長先生の交流が感動を呼んだ。それから42年。2023年10月3日に刊行された『続 窓ぎわのトットちゃん』(講談社文庫)には、トモエ学園を離れたトットちゃんが、窓際に立たされても壁際に追い詰められても、自分自身を貫き通して道を切り開いてきた姿が描かれて、新たな感動を誘う。
「トモエが焼けた」。最終章となる「さよなら、さよなら」の書き出しにこうあるように、トットちゃんこと黒柳徹子が通っていたトモエ学園が戦災によって焼失し、トットちゃんが疎開先の青森へ向かうところで、『窓ぎわのトットちゃん』は終わっている。トモエ学園は小林宗作という校長先生が作った学校で、前の小学校で他の児童たちとは違った言動を取り続け、厄介者扱いをされていたトットちゃんを受け入れて、自由に学ばせてくれた。
時間割はあってもその順番で勉強をしなくてもよく、児童たちが自分のやりたい学科から初めてかまわなかった。もちろん、苦手な学科もしっかりと学ぶ必要はあったが、分からないところがあれば先生から納得のいくまで教えてもらえた。先生たちは児童の誰がどのような学科が得意なのか、どのように考えるのかを把握でき、子供たちも興味のあることにめいっぱい取り組めた。
目上の人の言うことは絶対に聞かなくてはいけなかった戦前はもちろん、管理教育が行き届いていた戦後の日本でも、こうした教育方針は珍しかったのだろう。女優やタレントとして大活躍し、『徹子の部屋』や『ザ・ベストテン』といった番組の司会として抜群の知名度を誇っていた黒柳徹子が、そうした自由な教育を経て人気者になったということもあって、『窓ぎわのトットちゃん』を通して教育について考えたり、語ったりする人が大勢現れた。
黒柳徹子自身もベストセラーの作者として、そして教育に一家言を持った人として認知されるようになり、社会貢献活動も行うようになって知名度をさらに高めた。もしも『窓際のトットちゃん』を書いていなかったら、今も『徹子の部屋』の司会を続けて「同一司会者によるトーク番組の最多放送」としてギネス世界記録の認定を受けていただろうか。より視聴率がとれるタレントへと乗り換えるのがテレビであり芸能という世界。その中にあって特別な存在として位置づけられるくらい、『窓ぎわのトットちゃん』の効果は大きかった。
12月8日に公開となる劇場アニメ『窓ぎわのトットちゃん』では、トモエ学園でトットちゃんがどのような出会いをしたり、学んだりしたかが改めて描かれる。初めて会った小林先生が、両親には外してもらってトットちゃんの話を何時間も聞いてくれたこと、トットちゃんが欲しいというから作った校歌にがっかりされて、校長先生が残念そうな表情を見せたこと等々。名優・役所広司が声を担当する校長先生の演技が今から楽しみだ。
そんなトモエ学園での生活も、激化する戦災によって終わりを告げる。トットちゃんの一家は疎開先を探して青森へと引っ越していく。『続 窓ぎわのトットちゃん』にはそんな時代のトットちゃんたちの姿が綴られている。前作ではあまり語られていなかった、戦争というものに対する見方や考え方が伺えるところが目新しい。
NHK交響楽団の前身となるオーケストラでコンサートマスターをしていたヴァイオリニストの父、黒柳守綱が兵隊にとられて出征することになり、品川駅へと見送りにいったエピソードは、家族と別れなくてはならない辛さや寂しさが全国にあふれかえっていたことを想像させる。黒柳守綱はその後、シベリアに抑留されて捕虜となった日本兵を慰問する楽団で活動した。出征前は軍歌を一切弾かなかったものが、シベリアでは故郷を思う兵隊のために何でも弾いたという話からは、捕虜収容所の過酷な日々も浮かんでくる。
トットちゃんの方も、地縁のない青森に疎開して大変だったようだが、ここで母親の黒柳朝が大活躍した。疎開先では現地の人たちと良好な関係を築いたようで、とりあえず食べるものには困らなかった。戦争が終わった後は駅前の長屋に住んで「ごはん炊きます」という看板を掲げ、ちょっとした食堂を開いてお金を稼いだ。
行商もするようになって東京と青森を行き来するなど、音大を中退してヴァイオリニストと結婚したお嬢様とは思えない働きぶりを見せた黒柳朝については、自伝的エッセイでNHKの連続テレビ小説にもなった1982年刊の『チョッちゃんが行くわよ』に詳しい。古い本なので読む機会もあまりないため、改めて『続 窓ぎわのトットちゃん』で触れて驚き、そして感動したい。