『とあるおっさんのVRMMO活動記』から『フルメタル・パニック!』まで、加速する“おっさん萌え”のラノベ人気を考察
ライトノベルで“おっさん”の活躍がめざましい。椎名ほわほわ『とあるおっさんのVRMMO活動記』(アルファポリス)がTVアニメとなってこの10月から放送スタート。岸馬きらく『新米オッサン冒険者、最強パーティに死ぬほど鍛えられて無敵になる。』(HJノベルス)も2024年にTVアニメ化される。他にも異世界で無双するおっさんチームがいて、かつて世界を救った伝説の傭兵も家族持ちのおっさんとなって変わらない無敵ぶりを見せている。おっさんのどこに“強者”となれる要素があるのだろう。
ヘルメットを被るとそこはVRゲーム「ワンモア・フリーライフ・オンライン」の世界。38歳の田中大地はそのゲームのローンチと同時にアクセスし、アースと名乗って冒険を始める。そんな設定の『とあるおっさんのVRMMO活動記』で、アースはチートスキルを得て無双するどころか、「料理」や「弓」や「蹴り」といった地味なスキルを選択し、ソロでラビットを狩る地味な活動から入っていく。
ところが、ラビットをステーキにして食べようとしたら、周りから欲しいといわれてどんどんと作っているうちに、料理人として名前が知られるようになっていく。新しく始まったイベントでは、パートナーとなるはずの妖精と契約できなかった替わりに、妖精になつかれるスキルが与えられる。果ては、フェアリークィーンから無理やり指輪を左手の薬指に填められようとするほど好かれてしまう。
徹夜でゲームを続ける体力はなく、仕事にも行かなくてはならないおっさんが、学生のように廃人になるくらいゲームにのめりこむことは難しい。それでも余暇を楽しもうとして始めたゲームの世界で存在感を得ていく様子を見るに付け、何事もしっかりと見極めるだけの精神的な余裕があるおっさんならではといった勝ち方があるのだと分かってくる。
余裕を持って世界を見つめ直そう。そんな気持ちにさせてくれるところが『とあるおっさんのVRMMO活動記』にはあって、それが世代を問わず刺さる理由になっているのかもしれない。
おっさんだからといって諦める必要はないし、おっさんであることが諦めて良い理由にはならない。そんな気持ちにさせてくれるのが、『新米オッサン冒険者、最強パーティに死ぬほど鍛えられて無敵になる。』だ。長くギルドで受付員をしてきたリックが30歳になって一念発起。憧れていた冒険者になりたいと思い、知り合ったSランク冒険者のパーティで修行を付けてもらうことになった。
とてつもなく過激な修行を2年ほどこなし、名ばかりのF級冒険者となったリックが臨んだE級昇格試験でとてつもない力を見せてしまう。本人はたいして強くなっていないと思っていても、固い鎧をへこませ破れないサンドバッグを粉砕してしまうギャップに笑える。
リックが強くなれたのは、元から固有スキルがあったからだが、長く目覚めなかったそのスキルが、ドラゴン相手に命を投げ出す覚悟を決めたことでようやく発動したところから、おっさんになっても希望を失わず、勇気を振り絞る大切さが伝わってくる。
こちらも2024年のTVアニメ化が決まっている、ぶんころり『佐々木とピーちゃん』(MF文庫J)。社畜の佐々木が癒やしを求めてペットショップで買い求めた文鳥が、実は異世界から転生してきた賢者で、佐々木を異世界へと連れて行って交易で財を成させたり、魔法を教えて現世で超常現象に取り組む仕事に就かせたりする。冴えない中年男がふとしたことで得た幸運を、最大限に生かして活躍するようになっていく展開が気持ちいい。
おっさんには若者にはない知識があり経験がある。少しのことでは動じない度胸がある。それらを武器にすることで、若者とは違った活躍を見せられる。それを目の当たりにすることで、同じおっさん世代は「まだまだやれる」と自分を奮い立たせ、若い世代は「そういうやり方があるのか」と目新しさを感じる。おっさんが主人公のライトノベルが話題になっている背景には、読者のそうしたニーズがあるからなのかもしれない。