ハードコアパンクを愛する者たちの世界はかくも美しいーー石井恵梨子の『Laugh Til You Die』評

 TRAGEDYが使った「お前」には、おそらく「俺と同じハードコアパンクを愛する者」の意味がある。愛の対象、もしくは信仰や道徳心、さらに言えば生きる目的が同じ。だから迷わず繋がれる。ごく自然に相互扶助ができる。言い方を変えれば、カネさえ出せば何とかなるようなものに、ここに出てくる人たちはまるで価値を見出していない。こんな世界が確かに存在するのだ。素敵なのか、羨ましいのか、生活のためのキャッシュも必要な私にはうまく明言できない。ただ、言語も食文化も異なる各国のハードコアパンク・シーンで、この気持ちよさだけは世界中が同じである。美しいと思った。

 改めて記しておくと、本書はDEATH SIDE/FORWARDのボーカリスト・ISHIYA氏の私観シリーズ3作目。第一弾が「俺たちの仲間の話、全国に根を張る兄弟の話」。第二弾が「最高に格好よかった先輩の話」。第三弾にして初めて自伝的ツアーエッセイというのも、ハードコアパンクスらしい矜持だと思う。自分のことをベラベラ喋りたいわけじゃない。信頼する仲間たちがまず先だ。敬愛する先輩の話であれば、なおさら誤解のなきよう緊張も走る。そういう作業を終えた後だからか、本書の筆致は3作の中でもっとも軽やかだ。

 初めて語られる幼少期、実はびびっていた初ライブ体験、無我夢中だったバンド活動と、いつしか日本のシーンを背負うまでになっていた現在地まで。全部が全部楽しい話ではないけれど、全体に勢いと多少のユーモアがあり、何より生きている実感に溢れている。確かにこれは「HAVE FUN」の記録である。

■書籍情報
『Laugh Til You Die 笑って死ねたら最高さ!』
著者:ISHIYA(FORWARD/DEATH SIDE)
ISBN:C0073 978-4909852-44-1
発売日:2023年8月4日(金)
価格:3,000円(税抜)
判型:A5変形
頁数:472頁
発売元:株式会社blueprint
blueprint book store:https://blueprintbookstore.com

関連記事