『【推しの子】』大ヒットで考える アニメは子どもではなく、もはや大人が見るものになったのか
アニメは子どもではなく大人が見るもの?
一昔前まで、アニメーションは子どもが見るものというイメージであった。今やアニメは大人が視聴者の中心となっている。出版社はIPビジネスに力を入れ、街を歩けばいたるところでアニメとコラボしたカフェやイベントが開催されるに至っている。『ヤングジャンプ』で連載している『【推しの子】』はアニメで大ヒット。あまりにも社会現象となった状況に、作画担当の横槍メンゴはTwitterでも下記のようにコメントした。
そんな中で絶滅危惧種になっているのが、純粋な子ども向けのアニメだ。特に、小学生低学年の子どもたちが中心になって見るアニメは、風前の灯となっている。
記者が子どもの頃は、平日のゴールデンタイムには必ずアニメが数本放送されているものであった。両親と一緒にアニメを見たり、時には裏番組を巡ってリモコンの奪い合いをしたのは記憶に懐かしい。だが、アニメはゴールデンタイムからことごとくなくなってしまい、日曜日の朝か、夕方にNHKで放送されている状態である。
しかも、少年誌で連載される漫画が原作だというのに、子どもたちが寝静まった深夜枠に放送されているアニメが非常に多い。家族揃ってアニメを見る風景は、もはや過去のものになってしまっている。
「週刊少年ジャンプ」連載陣も様変わりした
現在、出版社はIPビジネスの盛況や、ベストセラーの連発によって活況を呈している。それらを買い支えているのは大人が中心である。その傍らで、子ども向けの人気漫画が十分に育っていないことも考えられる。特に、少女漫画雑誌からは長らく大ヒットが出ていない。「なかよし」に至っては、表紙が『カードキャプターさくら』だったりで、連載陣が現在の30代を意識したようなラインナップになっている。果たしてこれで良いのだろうか。
現在の「週刊少年ジャンプ」も、記者の子ども時代からは大きく様変わりした。読めばわかるが、汚い、ヘタウマの漫画がほぼ載っていないのである。1990年代までのジャンプといえば、下ネタのギャグ漫画が必ず掲載され、どう見てもヘタとしか思えないような荒削りの新人の漫画が載っていたものだった。
しかし、そういった漫画は大人には嫌厭されながらも、ガッツリと子どもの心を掴んでいたのである。漫画界の大御所となっている漫☆画太郎の破天荒な漫画は、当時のジャンプだからこそ生み出されたものだろう。90年代のムチャクチャなギャグ漫画は、現在のジャンプの基準なら掲載されないものが多いはずだ。
記者が現在のジャンプを読んでみると、漫画家全員の絵がきれいすぎ、うますぎると感じてしまう。ストーリーも作り込みすぎており、大人向けの漫画のようだ。学校帰りにお手軽に読める漫画になっていない。このことからも、現在のジャンプは確実に90年代より読者の年齢層が上がっていると思われる。ジャンプの漫画が読めない子どもの受け皿になっているのが「コロコロコミック」で、小学生男子向けの漫画はコロコロの独壇場である。
漫画はもはや、小学生にとって重要な娯楽ではない。記者の推測だが、定期購読で雑誌を買ってもらっている子どもは、90年代の4分の1以下になっているのではないだろうか。小学生に話を聞くと、漫画を1日必ず読むという子は少なく、TikTokやYouTubeなどが話題の中心になっている。漫画はあくまでもおまけ程度の存在であるようだ。
子どもが漫画やアニメを見なければ未来が危ない
JR九州の鉄道のデザインを手がけた水戸岡鋭治は、子どもが乗って楽しめる列車を多数生み出してきた。水戸岡は、子どもの頃から鉄道に乗ってもらうことが、鉄道の未来のために重要であると説いている。すなわち、子どもの頃に鉄道を利用した経験がなければ、大人になってから乗らなくなってしまうというのだ。
これは漫画についても言えるのではないだろうか。日本の漫画が幅広いテーマを扱えるようになり、世界でも稀有なほど広がりを持っているのは、現在の大人が子ども時代に漫画の文法に触れて複雑な内容を理解できるようになっていることが大きい。しかし、子どもの時代に漫画をまったく読んでいない人が、大人になってから読めと言われてもおそらく無理だろう。日本の漫画はコマ割りや吹き出しの読み進め方など、ある程度の漫画の文法を理解しなければ読むのが難しいためである。
子どものアニメ離れも進みつつあるようだ。現在、放送されているアニメは大半が大人向けなのである。もちろん大人がグッズなどを買い支える層なので、そういった人々の需要に合わせたアニメを制作するのは正しい。だが、子ども向けのアニメをもっと制作しなければ、20年、30年先、アニメを視聴する大人が激減してしまう可能性が高い。
現在アニメを支えている層は子どもの頃にアニメに慣れ親しんでいたからこそ、現在もファンとなりえているのだ。このことを忘れてはならない。しかし、アニメの企画を立てる側にも、もはや子どものためにアニメを作るという意識を持っている人が少ないのではないか。グッズ化されるとか、CDが出せるとか、そういったメディアミックスにばかり意識が向いていないだろうか。目先の利益ばかり追い求め、次の世代を育てることから逃げてはいないだろうか。
今、漫画界やアニメ界に必要なのは未来への投資の視点である。そろそろ将来を見据えて、アニメ制作を行わねばならない時期にきているのではないか。