「自己分析の鬼」三笘薫はいかにして夢を実現したのか? 初の著書『VISION 夢をかなえる逆算思考』に見る人間性

 ワールドカップと言えば、のちにマスコミなどで「三笘の1ミリ」と呼ばれるようになったプレーを思い起こさずにはいられないだろう。グループリーグ第3戦のスペイン戦。堂安律(フライブルク)が放ったクロスを、三笘がライン際ギリギリで折り返し、それを彼の下部組織時代からの朋輩であり三笘と共に「鷺沼兄弟」の愛称でも知られている田中碧(フォルトゥナ・デュッセルドルフ)が決めた一連のシーンだ。その後、日本であのシーンが取り沙汰され、「あきらめない気持ち」が強調されていることを知った彼は本書の中で、それも大事だけれど、そこに至るまでの「プレーを予測する力」や「ゲームを読む力」、さらにはポジショニングと呼ばれる「立ち位置」の重要性や、チーム全体での「ボールの運び方」にも目を向けてほしいと訴えかける。それが、どのような状況判断と、経験の裏付けによるものなのか。その詳細は実際に本書を当たってもらうとして、改めて驚かされるのは、主観客観織り交ぜたその記述の細やかさだった。そう、「真面目でストイック」、「自己分析の鬼」、そして「リアリスト」である彼が、最も重要視しているのは、自らのプレーを逐一「言語化」することなのだ。

 各章の終わりに「メソッド」のまとめが箇条書きで付記されるなど(それが合計120ということなのだろう)、いわゆる「自己啓発書」としての側面もありつつも、やはり彼が本作を書くに至ったいちばん大きな動機は、自らの考えや実践してきたこと、さらにはそのひとつひとつのプレーを、自身の言葉で「言語化」することだったのではないだろうか。それによって彼は、またひとつ成長するのだ。本書を最後まで読んで、そんな感想を持った。プレミア・リーグの開幕は8月11日(三笘の所属するブライトンの開幕戦は12日)。本書の「エピローグ」にも記されているように、すでに2026年のワールドカップを見据えている三笘薫のさらなる活躍に期待したい。

関連記事