”日本一買いにくい”ビジネス書『女子大生、オナホを売る。』は、なぜバズった? 著者リコピンが”マーケ的”な視点から分析

 「見まちがえたかな?」

書店やSNSで本書のタイトルを見かけ、目を疑った人は多いのではないだろうか。

『女子大生、オナホを売る。』

書店のビジネス書コーナーでも異彩を放つ話題沸騰のビジネス書『女子大生、オナホを売る。』(実業之日本社)

 著者である神山理子(リコピン)さんが明治大学商学部在籍中に起業、なぜかオナホ(男性用アダルトグッズ)を開発してAmazon売れ筋ランキングで4位というヒット商品にするまでの顛末を描いた一冊だ。

 多少よこしまな気持ちで手にした人もいただろうが、期待はばっさり裏切られる。こんなタイトルながらマーケティングの実践的手法を驚くほどわかりやすく、オナホの実例で丁寧にひも解いた上質なビジネス書である。

 そのギャップは痛快で、気持ちいいほどだ。

 しかも「学生時代、学校で生鮭を焼いて停学になった」「20歳でシンガポールの会社でWebマーケティングの修行をした」「ヒヨコのオスメスを仕分けするバイトをした」……など、不思議な武勇伝がさらりと語られ、それがオナホビジネスの成功に結びついていく爽快感もすさまじい。

 著者は一体どんな女性なのか? この本に込めた思いとは? オナホを売った元女子大生でマーケターのリコピンさんに話を伺った。

並んではいけない2語が生んだ、意外性

『女子大生、オナホを売る。』の著者であるリコピンさん

――『女子大生、オナホを売る。』、発売2ヶ月で2万5000部超えと絶好調です。もっとも、当初はほとんど宣伝広告はしなかったそうですね。

リコピン:できなかった、のほうが正しいですね。新聞広告や電車のドア横広告は「オナホ」というアダルトグッズが入ったタイトルがひっかかって、掲載できなかったんですよ。

 残念だったのは、街中を走るアドトラック(広告宣伝車)もNGだったこと。担当編集の方と高収入求人情報のように「かわいく目を引くアドトラックができそう」と考えたのですが、こちらもダメでした。「本のタイトルを隠したら何とかイケるかな…」との議論もありましたが、それじゃ意味がありませんからね(笑)。

――確かに(笑)。一方でTwitterでは、「マーケティングの良書」「起業を考える人におすすめ」と激しく推すマーケッターやビジネスパーソンが目立ちました。

リコピン:うれしかったです。マーケ的な視点でいうと、“意外性”のあるキャッチコピーは顧客に刺さりやすく、伸びやすいんですね。

 「女子大生」と「オナホ」が対極にある言葉。並んではいけない2つの単語が並んだタイトルは、意外性として多くの人の手にとってもらえたのかなと。実際は、書店で最も手に取りづらい本とも言われていますけど(笑)。

 またツイートやリツイートも“意外性”を感じたときにしたくなると言われています。たぶん、ちょっと違うモチベーションで手に取ったけれど、読んでみたら「あれ、マーケの勉強になっちゃった」と“意外性”がある。その結果、SNSでシェアいただけたのかなと。

――実際に届いた感想は、どのようなものが多かったのでしょうか?

リコピン:多かったのは2つですね。

 まずは「難しい言葉を使っていないから、素人でもすごくわかりやすく、マーケティングが理解できた」という声。

 もうひとつは「学校に生鮭を持ち込んで、焼いてお弁当にして、停学になった」といった個人的なエピソードがおもしろかったという声です。

――前者は本当にそうでしたね。下ネタすら苦手なリコピンさんがWebマーケティングの手法を使ってオナホビジネスを立ち上げ、成功させていく様にぐいぐいと引き込まれました。どのような読者層を想定されていたのでしょうか?

リコピン:マーケティングに興味があるけれど、具体的にどうしたらいいかわからない、大勢のビジネスパーソンの方々を想定していました。

 マーケットイン(顧客の悩み起点で商品を開発すること)とプロダクトアウト(企業が持つ技術や狙いを起点に商品を開発すること)の違いはわかるけれど、「で、実際、マーケットインって、どうやってはじめればいいの?」と具体的なフローまでは浮かばない人に向けて書きました。

 私自身、Webマーケを手掛ける中で、マーケに関する本を読み漁っていたんですね。すると、マーケティング概論の話や、売るためのセールスライティングに言及した本は多かったのですが、マーケティングのキモとなる「顧客のインサイト(潜在的なニーズ)を掘る」方法までわかりやすく伝えてくれる本が無かったんです。

――そこでオナホユーザーのインサイトを実際に探っていくさまを具体例で丁寧に示していったんですね。

リコピン:はい。たとえば、インサイトを掘るときは「思い込みを排除しよう」といった定石があります。そのために、実際の想定顧客の方々にインタビューして掘り起こしていく必要があるのですが、どこをどうやっていけばいいかまでは詳しく本から得るのは難しかったんです。そこでこの本には、私が実際に行ったインサイトを掘り起こすためのインタビューの手法を詳しく書きました。周囲の友人はもちろん秋葉原のアダルトグッズ店の前に立って突然話を聞いたり、マッチングアプリで出会った人に「オナホについてインタビューするさま」を伝えたり、そこまで書くと具体的にイメージできやすいじゃないですか。ただこれらの話って下ネタ嫌いだった女子大生がオナホについて調べているから特異に見えますが、実はとても当たり前のことしていただけなんです。

 ただ結果として、わかりやすく「思い込みを排除して、インサイトに近づく」手法をお伝えできたかな、と思っています。

――なるほど。もうひとつの「学校に生鮭を持ち込んで食べて停学」に代表される、リコピンさんの武勇伝とキャラクターに魅了された方が多かったとのことですが、私もそうでした。女子大生でオナホを手掛けた事実が霞むほど、とがった濃い味のエピソードが多いじゃないですか。原体験は何なのですか?

リコピン:その意味でいうと、幼稚園時代の“武器商人”の経験ですかね。

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