ネタバレ厳禁で話題沸騰『世界でいちばん透きとおった物語』の凄さとは? ミステリファン必読の快作
それと並行して、宮内彰吾という作家の実像も露わになっていく。傍若無人で女性にだらしない、人間性に問題のある男。しかし作品は素晴らしく、その才能により編集者は宮内を認めている。こうした編集者の考え方はリアルだ。どんなに問題のある作家でも、作品が売れるならば、たいがいのことは許されるのは、昔も今も変わらない(とはいえ許される限界もある)。作者は文芸出版の内情について、結構突っ込んで書いている。ここも読みどころといっていい。
話がずれた。元に戻す。燈真は精神の起伏が乏しく、母親の死を悲しむことができなかった。だけど、何も感じていないわけではない。遺作捜しを引き受けたのも、半分は金のためであり、半分は父親に対するモヤモヤがあったからだ。そんな燈真の前に、しだいに父親の輪郭が浮かび上がってくる。たしかにダメ人間なのだが、生き方に芯があった。そして『世界でいちばん透きとおった物語』の真実が分かったとき、燈真と宮内の間に、たしかな繋がりがあったことが明らかになるのである。この展開は感動的だ。
だが、ミステリ・ファンならば、別のところに最大の感動を覚えることだろう。本当に詳しく書けないのが残念無念なのだが、本書の狙いが理解できたとき茫然とした。よくぞこんなことを実行したものである。実在の人気作家まで伏線に使い、大胆不敵な企みを成立させた作者に脱帽。ミステリが好きな人なら必読といいたくなる作品なのだ。
なお本書は、物語が終った後に献辞が掲げられている。ちょっとネットで調べれば、作者が献辞を捧げた作家と作品のことも、すぐ分かるだろう。できればそちらの作品も読んでもらいたい。そして本書と併せて、小説の可能性が広大であることを、実感してほしいのである。