『夢みるように、愛したい』など「天使シリーズ」で一世風靡 折原みとの悲恋小説が教えてくれたこと

さらに少女を成長させる「天使シリーズ」

 『天使の降る夜』の2年後、折原は天使シリーズの第3弾として『エンジェル・ティアーが聴こえる』(講談社X文庫―ティーンズハート)をリリースした。こちらは、リョウの親友である天使のシンと、『夢みるように、愛したい』の主人公だった桜子の娘 美紅が主人公の物語だ。シンはぶっきらぼうで、ドジで優しいリョウとは正反対のコワモテキャラとして描かれてたが、最後は愛する人を思って身を引く。ラストで号泣した人も多かった。

 この3冊では、恋愛が必ずしもハッピーエンドを迎えるわけではない、ということを手を変え品を変え、主人公を変えて丁寧に語られてきた。これ以上、学ぶことはないだろうと思っていた頃にやってきたのが「英語版」だ。1991年から1992年にかけて、講談社英語文庫から、天使シリーズが『Dreaming of Love(夢みるように、愛したい)』、『The Night of the Angel(天使の降る夜)』、『Angel Tears(エンジェル・ティアーが聴こえる)』という名前になってリリースされた。

 原作を読み込んでいた人たちはこの英語版にも飛びついた。筆者ももちろん買った。地元の書店では取り扱っていなかったので、大手の書店で取り寄せてもらった。手元に届くまでに2週間以上かかったと記憶しているが、待つだけの価値はあった。当時はまだ全文が理解できていたわけではないが、英語に対するハードルが一気に下がったからだ。難しそうに見えても、書いてある内容は恋物語。難解に感じられる『源氏物語』が実はドロドロの愛憎劇でしかないと分かった瞬間に親近感が湧いてくるのと同じ感覚だったと思う。そう考えると、80年代後半から90年代初めにかけての折原みとの影響力は凄まじいものがあった。

 ここまで「天使シリーズ」について書いてきたが、記事の締めとして、最近の折原の活躍を紹介したい。少し前になるが、折原は週刊女性PRIMEに、令和幕開け記念コミックとして、皇后雅子さまの半世紀を描いた漫画を連載していた。その連載について語った記事がFRaUに掲載されているが、皇后さまを「ハイスペックすぎるプリンセス」と表現しているのだ。確かにその通りなのだが、誰もがそんなラベリングはしてこなかった。そんな軽さで伝えてしまっていいのか不安にもなるが、両陛下がご成婚した年に、飛ぶ鳥を落とす勢いで活躍していた折原が伝記漫画を描くのはある意味必然だったのかもしれない、とよくわからない納得をする。折原で育ってきた筆者は、そういうところも折原の魅力だと受け止めてしまうのだ。

関連記事