日本のポップカルチャーのルーツには「宮沢賢治」がいる 『猫と笑いと銀河 宮沢賢治ユーモア童話選』発売
賢治は、その音楽好きが昂じて農学校教師時代には給料をレコードの購入につかいはたした。岩手県の小都市の花巻のレコード店の売上げが良いので、その店がレコード会社から表彰されたほどである。
そうして賢治は日本のポップカルチャーの源流に位置するのだが、問題はあまりに先進的だったことだろう。童話「セロ弾きのゴーシュ」の金星音楽団は「町の活動写真館」すなわち無声映画のシーンに合わせて演奏をする楽団だが、ベートーベンの「田園」と思われる「第六交響曲」のコンサートのための練習をしている。まだ日本にコンサートの楽団が一つか二つくらいしかなく、岩手には皆無だった。
そんな時代にアメリカのいろいろな音楽をを取り入れても、理解できる人は稀だっただろう。賢治の作品の多くは、あの「銀河鉄道の夜」も含めて、生前に発表されることはなかった。出版社に原稿を持ち込んでも刊行を断られることが多かったのである。しかし現在、賢治の作品は絵本やアニメなどでリメイクされ続け、むしろ未来的なイメージをもたれる作家となっている。
宮沢賢治は昭和8年(1933)9月21日、37歳で没した。今年は没後90年になるのだが、それを言うと、「そんな昔の作家だったの!」と驚く人もいるくらいである。
最後に賢治が作詞・作曲したいくつかの歌曲の中から、ときどきテレビのコマーシャルやドラマでも聞くことがある「星めぐりの歌」を紹介しておきたい。歌詞には星座の名と形、星空での位置などが詠み込まれている。
あかいめだまの さそり
ひろげた鷲の つばさ
あをいめだまの 小いぬ、
ひかりのへびの とぐろ。
オリオンは高く うたひ
つゆとしもとを おとす、
アンドロメダの くもは
さかなのくちの かたち。大ぐまのあしを きたに
五つのばした ところ。
小熊のひたいの うへは
そらのめぐりの めあて。
※楽譜画像
「星めぐりの歌」筑摩文庫「宮沢賢治全集」第3巻より
「習作」冒頭部分
『春と修羅』複刻版(近代文学館)より
参考文献
佐藤泰平著『宮沢賢治の音楽』筑摩書房1995