【推しの子】アニメとともに味わいたい短編小説『45510』 アイに陰影を与える“アイドル讃歌”を読む

 拡大版で放送されたアニメの第一話が大きな話題を呼んだ『【推しの子】』。原作ファンは序盤の衝撃を忘れがちだが、前情報を持たずにアニメを視聴した人たちからは、「こんな内容の作品だったとは」という趣旨の声が相次いでいる。

 それはそうだ。ビジュアルとして前面に出ているのは作中の完璧なアイドル・アイの華やかな姿で、賑やかで美しい作画からも、タイトルからもポップな作品であることが想像される。それが第1話にして涙なしに見られないシリアスな展開を迎えるとは考えづらい。その衝撃からYOASOBIによる主題歌「アイドル」の歌詞に対する考察合戦も始まっており、今後もさらなる盛り上がりを見せるだろう。

 そんななか、楽曲「アイドル」の原作となった『【推しの子】』の原作者・赤坂アカによる短編小説『45510』が公開された。これが、虚像と実像が複雑に交差する「アイドル」という魅惑のモチーフと、『【推しの子】』を象徴する存在であるアイの“横顔”を伝える作品となっており、アニメの続きを視聴する前に読むことをお勧めしたい。

※以下、『【推しの子】』のネタバレを含みます。

 「45510」という数列は、原作ファンにとって馴染みのあるものだ。アイが遺したスマートフォンのパスワードで、“息子”のアクアが4年間をかけ、総当たりで解読(桁数もわからず、間違えるたびに30秒間操作不能になっていた)。この番号が何を示すのか、原作ファンはさまざまな考察を繰り広げていたが、今回の短編で、アイが所属していたアイドルグループ「B小町」に関連するものだということが明らかになった。

 具体的なネタバレは控えるが、小説『45510』の主人公はB小町のメンバーだ。不動のセンターとしてグループで圧倒的な存在感を放ち、自分たちを脇役に追いやった、最も憎く、しかし最も敬愛するアイ。愛憎入り混じる複雑な感情のまま、アイが遺したあるメッセージを発見した主人公は何を思い、何を実行するのかーーというのが、本作の読みどころだ。読後は喪失感とともに、“究極のアイドル”だったアイの魅力を再発見することになる。

 結論として小説『45510』は、あまりに多面的な魅力を持つ『【推しの子】』のひとつの側面を補強し、陰影をつける作品だった。『【推しの子】』はある種の転生&リベンジ作品であり、SNSやリアリティショーという現代的なテーマをうまく取り入れた作品であり、タレントたちの成長物語であり、シリアスなサスペンス&ミステリですらあるが、『45510』を読むと、それらの要素を含む“アイドル讃歌”なのだと思わされる。

 『45510』は「週刊ヤングジャンプ」の公式サイトで公開中。未読の方は、第3話放送の前にぜひチェックしておこう。

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