『のだめカンタービレ』作者が絶賛 『宇宙の音楽』は新たな吹奏楽漫画の金字塔となるか?

 “ああ、こんなに瞳を輝かせることが人生にあっただろうか”と、思わず羨ましくなるほど眩しい音楽漫画がある。月刊少年マガジンで連載中の『宇宙の音楽』だ。

『のだめカンタービレ』の作者が「負けた」嬉しい読後感

 3月16日に1巻が発売され、その帯には『のだめカンタービレ』で音楽漫画の金字塔を打ち立てた二ノ宮和子氏によるコメントが目を引く。「『心を動かされたら私の負けや』と思って読んだ」と始まり、「涙腺をゆるくしながら“この曲を聴きたいな”と思ったので、負けたと思う」と綴られていた。

 あの二ノ宮和子氏が「負けた」? と、なんとも気になってページをめくる。そして、読み進めながら気がつく。この「負け」という表現は決してネガティブな意味ではなく、むしろ「負けたかった」「よく負かしてくれた」という感覚に近いのだ、と。なぜなら、このコメントの「『心を動かされたら私の負けや』」とは、作中のあるシーンから引用されたものだから。

 物語は吹奏楽を愛する男子高校生・宇宙 零(たかおき れい)の入院シーンから始まる。トランペット奏者を父に持ち、自身も当然のように吹奏楽を志す。だが、彼には喘息という持病があり、演奏することは難しい状況に。

 そこで零は吹奏楽部のない高校へと入学を決めた……はずだった。だが、彼の耳にはお世辞にも「うまい」とは言えない吹奏楽部の演奏が聞こえてくる。なんと2年の星野水音(ほしのみお)が1年前に吹奏楽部を創部したというのだ。

 トランペット吹きの水音は、零がすぐに有名トランペット奏者の息子であることに気づく。すぐに零にも吹奏楽への勧誘を始めるが、もちろん頷くはずがない。ならば、トランペットで「勝負しよや」ということに。勝敗を決めるのは“心”。そう、ここで『心を動かされたら負け』のフレーズが登場するというわけだ。

 「負ける」ということは、つまり感動させられてしまうということ。感動して嬉しくない人間はいない。勝つよりも、むしろ負けることが嬉しい結果なんてなんともニクい勝負ではないか。

登場人物たちの瞳が語る“希望”の音

 まさに「目は口ほどに物を言う」と言いたくなるほど、瞳の描き方に引き込まれるのもこの作品の大きな魅力。もともと多感な年齢な上にプライドも高く、不器用で素直になれない性格の零。だが、その眼差しは驚くほど正直で、水音の吹き上げたトランペットの音に心を鷲掴みにされたのが痛いくらいに伝わってくる。

 そこから見えるのは、本当は吹奏楽をやりたいという秘めた思い。持病を気にせず思い切りトランペットを吹きたかったという絶望。そして、またいつか誰かと息を合わせて演奏したいという希望。

 水音のトランペットを「下手」と見下すことで情熱に蓋をしていたつもりだった。「音がちょっといいだけ」なんて斜に構えることで、心が動かないようにバリアを張ったつもりだった。でも、その水音の奏でる音は、そのバリアも蓋もいとも簡単に吹き飛ばす力を持っていた。零が必死に押し込めていたものがブワッと溢れて止められなくなる。その様子を見て、また読者も共鳴するように“感動させられ”てしまうのだ。

 一方、水音の目もまた印象的だ。吹奏楽への思いを1人ピアノにぶつけていた零。1人で吹奏楽を弾き続けてきたそのほとばしるエネルギーに触れて、目を見開く。そしてこの部屋に収めておくには大きすぎる才能と可能性に、心が突き動かされる様子が瞳のきらめきによって伝わってくるのだ。

 そして、奏者ではなく「指揮者」として吹奏楽部に入部することを提案する。それは、零にとっては考えても見なかった新しい道。もちろん、水音にとっても予想だにしなかったこと。それでも、2人の瞳の輝きが同じ未来を見据えているようで鳥肌が立つ。零の心を決壊させた水音のトランペット音を。水音が見た、指揮者の零が奏でる音楽を“聴きたい”と思わずにはいられない、そんなはじまりの1巻だ。

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