有隣堂のYouTube活用に見る、書店の新しい役割「本を読まない人」ターゲットに支持集める

 紙の本が売れなくなっている時代だが、筆者の地元の本屋はお会計を待つ客で行列ができていることが多い。

 その本屋の名前は「有隣堂」。

 神奈川県で生まれ育った筆者にとって有隣堂は馴染みのある本屋さんだ。だが、最近は日本全国に熱烈なファンを増やしている。

 今回の記事では、有隣堂がブームになっている理由と、そんな有隣堂による『老舗書店「有隣堂」が作る企業YouTubeの世界〜「チャンネル登録」すら知らなかった社員が登録者数20万人に育てるまで〜』(集英社)を激推ししたいワケについて語っていきたい。

企業YouTubeの概念をブッコわす

 「有隣堂」は神奈川県を中心に約40店舗を展開している書店チェーン。店舗によって、本だけでなく、文房具や食品も取り扱っている。

 そんな有隣堂は企業YouTube「有隣堂しか知らない世界」を運営しているのだが、これが抱腹絶倒なみにおもしろいのだ。登録者数は21万人を超える。

記念すべき第一回は、なぜか有隣堂で取り扱っていないキムワイプの魅力を熱弁(現在は視聴者の要望により販売している)

 人気の理由は、MCのR.B.ブッコローのトーク力と、個性豊かすぎるスタッフの皆さんの掛け合いにある。だが、同業他社との愛あるやりとりや、取引先との製品掘り下げトークなど、会社としての有隣堂を応援したくなる要素が詰まっているのだ。

 また、企業YouTubeでありながら、製品を売ろうという意気込みよりも、はるかに「モノが好き、コトが好き、ヒトが好き」が全面に出てしまっているのも魅力のひとつ。自社の宣伝をメインとした企業YouTubeの概念をいい意味でブッコわしてくれるのだ。

 書店の経営が危ぶまれ、次々と閉店のニュースが舞い込むご時世に、有隣堂は動画コンテンツを駆使して、「バイヤーの顔が見える書店」作りに成功している。オンラインショッピングの一般化で無機質で機械的になりつつある物選びが、有隣堂では店舗の中を歩き回るだけで思わずニヤけてしまう経験になる。動画のファン(チャンネルのファンをユーリンチーと呼ぶ)なら、キムワイプやプロレス雑誌を見て吹き出しそうになることだろう。

奇跡のマリアージュと計算された構成

 そんなYouTube「有隣堂しか知らない世界」をみていると、様々な疑問が浮かんでくる。同社のチャンネルが成功したのは、個性豊かな従業員が揃っていたからなのだろうか、それともMCの力によるものが大きいのだろうか。外注せずに社員だけで回しているのだろうか、同様に成功したい場合どうすればいいのだろうか……などなど。

 前置きが長くなってしまったが、その答えに答えてくれるのが、ズバリ『老舗書店「有隣堂」が作る企業YouTubeの世界〜「チャンネル登録」すら知らなかった社員が登録者数20万人に育てるまで〜』なのだ。

 同書は、企業YouTubeを始めるまでの敬意や、登録者獲得への試行錯誤、認知度をあげてからも大切にしているモットーなどを惜しみなく共有している。ここまで手の内を見せてしまっていいのかと不安になるが、有隣堂のチャンネルが、常に視聴者の利益と、業界全体の盛り上がりを大切にしてきたのを知っているので、「有隣堂らしいな……」とニヤついてしまう。

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