文豪ストレイドッグス、名探偵の生まれる夜、標本作家……実在の文豪が活躍するフィクション3選

小川楽喜『標本作家』(早川書房)

 もう一冊、第十回ハヤカワSFコンテスト大賞を受賞した、小川楽喜の『標本作家』も取り上げたい。人類が滅亡した遥かなる未来。玲伎種という高等知的生命体は、高名な作家たちを再生し、永遠の命を与えて小説を書かせていた。収容施設〈終古の人籃〉には、十人の作家(途中で一人増える)と、編集者のような役割の巡稿者メアリ・カヴァンがいた。かつてはそれぞれに作品を書いていた作家たちだが、今は〈異才混淆〉による共著になっている。しかし作品の質は下がるばかりだ。この事態を打開しようとカヴァンは、〈異才混淆〉を止めるよう、作家たちに働きかける。

 玲伎種の存在や、作家に小説を書かせる目的は、物語を成立させるための設定であり、あまり気にする必要はない。作家同士や、作家とカヴァンの会話を通じて浮かび上がってくる、小説とは何か、なぜ小説を書くのか、なぜ小説を読むのかという問いかけが、本書の読みどころになっている。

 面白いのは登場する作家にモデルがいることだ。最初に登場するセルモス・ワイルドが、オスカー・ワイルドであることくらいは、いってもいいだろう。また、巡稿者のメアリ・カヴァンも、『光』などの作品で知られる作家のアンナ・カヴァンを意識している。そのため作家たちの発言に、実在の作家のエピソードや作品を重ね合わせ、深読みせずにはいられないのだ。設定も内容もまったく違うのだが、『文豪ストレイドッグス』と同じく、創作された登場人物の中に、実在の文豪を見ずにはいられないのである。

 一度、物語が生れれば、それがなかった時には戻れない。もう作者も読者も、近代の文豪をコンテンツ化していいと思っている。だからこれからも、そのような作品が現れるだろう。どんなふうに文豪を扱うのか、大いに楽しみである。

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