西尾維新、100冊の著作を積み上げてきた20年の軌跡ーー〈戯言シリーズ〉最新作に寄せて

 デビュー作とシームレスに繋がる最新作からは、20年を変わらず走り抜けたという印象が西尾維新という作家に対して浮かぶ。西尾維新を送り出したメフィスト賞からは、京極夏彦を第0回の受賞作家として、特殊な能力を持った大勢の探偵たちが登場する『コズミック 世紀末探偵神話』の清涼院流水や、天才と探偵が激突する『すべてがFになる』の森博嗣といった独特な作品世界を持った作家たちが登場。本格ミステリから新本格ミステリへと進み、そこに猟奇や衒学を混ぜたり逆にストイックさに向かったりするような変奏でミステリに影響を与えた。

 1998年にライトノベルの電撃文庫から上遠野浩平の『ブギーポップ』が出て、乾いた文体と俯瞰的な視点を持った作風がライトノベルを超えて若い本読みたちに影響を与えたこともあったからか。2001年の第19回を『煙か土か食い物 Smoke,Soil,or Sacrifices』で受賞した舞城王太郎や、第21回受賞作『フリッカー式 鏡公彦にうってつけの殺人』でデビューした佐藤友哉のように、後に文芸作品が対象となる三島由紀夫賞を獲得する作家たちが出てくるようになった。

 デビューが近いその2人と、同時代を表現する同世代の作家たちといった雰囲気を見せていた西尾維新だったが、書くものに重厚さを増していった舞城や、青春小説や異世界転生ものなど書くものを広げていった佐藤とは対照的に、西尾維新はデビューから20年が経ち、100冊の著作を積み上げてきた今も、ある意味で不変のフォーマットを貫き通している。それでいて確実にファン層を広げているところに、ずば抜けたキャラクターの創造力であり、奇想に満ちた展開力であり、それらを綴って読む人を離さない文体力の確かさがあると言えそうだ。

 2022年9月に出たデビュー20周年記念の新シリーズ第1作『怪盗フラヌールの巡回』(講談社)では、怪盗だった父親が盗んだものを返しに行く2代目怪盗を主人公に、ど派手なドレスに身を包んだ女性探偵がいて、敵となる存在も現れと入った具合に、持ち味がすべて生かされなおかつ先の予想できない物語を繰りだしてきた。3月29日には続編『怪盗デスマーチの退転』が早くも刊行予定。いきなり〈戯言シリーズ〉の泥沼に足を踏み入れるよりは、こちらから入る方がお試しとしては良いかもしれない。

 結果として西尾維新ワールドにとらわれ、離れられなくなってこれからの何十年かを付き合うことになるのは確実だが。

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