連載:道玄坂上ミステリ監視塔 書評家たちが選ぶ、2022年12月のベスト国内ミステリ小説

橋本輝幸の一冊:大倉崇裕『殲滅特区の静寂 警察庁怪獣捜査官』(二見書房)

 舞台は、沿岸部を中心にたびたび怪獣の襲撃を受ける日本である。主人公の岩崎正美は怪獣省の予報官として、発見された怪獣の動向を分析し、方針を立案するのが務めだ。

 しかし物語の焦点は人間と怪獣との戦いではない。本書はあくまで、怪獣が実在した世界における本格ミステリかつ警察小説で、人間の欲望や組織的犯罪が引き起こした3つの事件が収録されている。改変歴史世界のプロフェッショナルたちの泥臭く地道な活動と、ときに冷徹な判断こそが醍醐味である。マイベストは謀略とアクションで緊迫感みなぎる第2話(表題作)だ。

藤田香織の一冊:青本雪平『バールの正しい使い方』(徳間書店)

 装丁とタイトルに「ん!?」と惹かれるものがあって読み始めたら、これがもうやめられない止まらない! 父の都合で転校を繰り返している小学四年生の主人公・礼恩の、ちょっと他の子より聡い「感じ」とその危うさ。都市伝説となっている「バールの怪人」の存在。嘘つきばかりのクラスメイト。なぜ、なにが、どうなっているのかという謎を追いかけた果てに、そうきたかー! と胸がギュっとなる結末。本書が2作目の長編ということなので1作目の『人鳥クインテット』も即購入。自分好みの青春ミステリー要素が詰まっていて惚れたー!

杉江松恋の一冊:青崎有吾『11文字の檻』(創元推理文庫)

 これしかない。というより収録作の「恋澤姉妹」だけで今月の一作とするにふさわしい。それに表題作が加わればもう文句なしだ。「恋澤姉妹」は二人だけの世界を他人に覗かれることを嫌い、観測しようとする者をすべて殺害する恋澤吐息と血潮の物語だ。語り手は危険な二人に魅かれ、死の危険があるにも関わらず調べて初めてしまう。暴力と諧謔と速度と重力と愛と別れとが十二分に詰まった非の打ちどころのない犯罪小説である。こんなものを書いちゃう作家に、いつの間にか青崎有吾は進化していたのだ。何度も読み返した。

 短編集から密室長篇、ホラーと推理の融合作品、怪獣、バール、地下となんともバラエティに富んだ月になりました。これは2023年も期待が持てそうです。今年もよろしくお願いします。

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