釣りキチ三平・矢口高雄の功績 日本の美しい自然を緻密かつ迫力あるタッチで描く漫画界の巨匠 

『釣りキチ三平』(講談社)

 矢口高雄といえば、『週刊少年マガジン』で連載された『釣りキチ三平』などの作品で知られる漫画界の巨匠である。矢口は秋田県出身で、高校卒業後に地元の銀行に就職。しかし、銀行員を続ける中で一度は諦めていた漫画家の夢が再燃し、約12年間勤めた銀行を退職、単身で上京した。

『9で割れ!―昭和銀行田園支店』(中公コミックス・スーリスペシャル)

 矢口が秋田を離れて上京、漫画家として本格的に活動を始めたのは30歳の頃である。10代でデビューした漫画家が数多く活躍していた当時としては、極めて遅いデビューであった。しかし、デビュー前には水木しげるからその才能が高く評価され、さらに初期の頃は梶原一騎が原作者となった『おとこ道』などを連載するなど、じわじわと頭角を現し始める。

 その後、自身が好んだ釣りを題材にした『釣りキチ三平』をはじめ、『マタギ』『おらが村』など自然をテーマにした作品がヒット。『9で割れ!―昭和銀行田園支店』などの自伝漫画やエッセイ漫画にも才能を発揮した。さらに、文部省(当時)検定済の学校教科書にも作品が掲載されるなど、漫画の社会的な評価を高め、漫画界の発展に大きな足跡を残した。

 令和2年(2020)に惜しまれながら死去したが、それまでに足掛け50年にわたって特に故郷・秋田の風景を描き続けた。矢口は、秋田県のイメージを日本中に広め、定着させた立役者と言っていい。その卓越した画力はTwitterでもたびたび話題に上がるほどである。

秋田県横手市増田町が舞台の『おらが村』(ヤマケイ文庫)

 矢口は生前に、手塚治虫、石ノ森章太郎など数々の巨匠漫画家と親交を深めた。また、令和3年(2021)に亡くなったさいとう・たかをとは、同じ“たかお”同士で親交が深かった。矢口の業績を記念して秋田県横手市に建設された「横手市増田まんが美術館」には、さいとうも何度か訪問しており、『ゴルゴ13』の全原画が収蔵されるに至っている。

惜しくも2021年に84歳で他界した、さいとう・たかを。その年に発売された『ゴルゴ13』201巻は「最も発行巻数が多い単一漫画シリーズ」としてギネスブックに認定されていた

 そんな矢口の業績を、貴重な原画とともに振り返る回顧展『矢口高雄展 夢を見て 描き続けて』が、明治大学米沢嘉博記念図書館・現代マンガ図書館で開催される。しかも、なんと入場無料だ。矢口の原画を見たことがある人はわかると思うが、原画から伝わってくる迫力は凄まじいものがある。三平クンが飛び跳ね、魚が躍動しているのだ。Twitter上ではわからない、漫画家の息遣いをぜひ原画から感じとってほしい。

 なお、矢口の故郷である秋田県羽後町には、ゆかりの地が数多く残されている。また横手市増田まんが美術館も併せて訪問をおすすめしたい。

矢口高雄が下宿した秋田県羽後町にある黒澤家住宅。江戸時代末期に建てられた歴史ある町家が残る。(写真=背尾文哉)

【展示会情報】
矢口高雄展 夢を見て 描き続けて
入場無料
会場:明治大学 米沢嘉博記念図書館・現代マンガ図書館 1階
   〒101-8301 東京都千代田区神田猿楽町1-7-1 TEL:03-3296-4554
会期:2022年10月14日(金) ~ 2023年2月13日(月)
開館日:月・金14:00~20:00、土・日・祝12:00~18:00
休館日:火・水・木(ただし祝日の場合は開館)、12月25日(日)~2023年1月7日(土)
お問い合わせ電話:03-3296-4554

※特別整理などで休館する場合があります。
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