「異世界転生」の進化系『私の推しは悪役令嬢。』王道ラブコメからシスターフッドの要素を取り入れより注目作へと進化

 「異世界転生」作品が世の中を席巻している。

 そもそも「異世界転生」とは、読んで字のごとく主人公が事故や事件で死んで、異世界に飛ばされてしまい、その世界で生きることだ。舞台は中世ヨーロッパ風で魔法もドラゴンやスライムも出てきてまさしく「異世界」だ。

 有名どころはきっと聞いたことがあるだろう。

 『転生したらスライムだった件』(川上泰樹作画/伏瀬 イラスト/みっつばー著 講談社)や『異世界居酒屋「のぶ」』(ヴァージニア二等兵 作画/転 キャラクター原案/蝉川夏哉 著 KADOKAWA)など、枚挙にいとまがない。

  メディアミックスされることが多く、マンガはもちろんのこと、アニメ化やドラマ化をされることが多い。またタイトルが長いことも特徴の一つである。

  そんな「異世界転生」ものの中で変化球なのが『私の推しは悪役令嬢。』を今回は紹介したい。

  フツーとはほんの少し違う「悪役令嬢」マンガ『私の推しは悪役令嬢。』

 『私の推しは悪役令嬢。』(青乃下 作画/花ヶ田 キャラクター原案/いのり。著 一迅社)は「異世界転生」の進化系「悪役令嬢」が合わさったジャンルになっている。

 「悪役令嬢」作品は「異世界転生」作品からの派生であり、乙女ゲームに出てきそうな悪役の少女に転生し、「異世界」での出来事に翻弄されていく。悪役令嬢になった主人公はバッドエンドを回避するために、手を尽くすという話が多い。

 『私の推しは悪役令嬢。』はフツーの「悪役令嬢」作品とは少し違う。どこが違うかと言うと主人公が転生するのは悪役令嬢ではなく、ヒロインだ。そしてヒロインが好きなのは男性キャラクターではなく、「悪役令嬢」。つまりジャンルとしては「百合」である。

 『私の推しは悪役令嬢。』は中小企業に勤める「私」は乙女ゲーム『Revolution』の主人公・レイ=テイラーに転生し、王立学院で生活を送る。主人公をいじめて最後には逆転されるだろう悪役令嬢・クレア=フランソワ。主人公が最も推しているキャラクターがクレアなのだ。

 『私の推しは悪役令嬢。』のマンガ1巻と2巻の王道を行くラブコメは「百合」好きとしてはたまらない。レイは友人・ミュシャ=ユールやクレアのメイドであるレーネ=オルソーと友情を育みつつ、悪役令嬢であるクレアに虐げられることを楽しむ。教科書を隠されたり、紅茶をかけられたりするが、クレアなりの配慮があり(例えば紅茶は熱湯のものではなく少し冷めたものをかけられる)、レイはそんな気高い悪役令嬢であるクレアのことをこう言う。

クレア様ってね
虐めるときは必ず
自分の手を汚すんだ

それに虐めても決して
一線は超えない

あの人間臭さが
妙に憎めなくて
そういうところが
可愛くて
たまらないんだよ

 無駄なプライド高さを持っていることや、傷つきやすさを隠すために威嚇する姿は、確かに「推し」に値する。

 レイは攻略対象である王子たちそっちのけで、クレアに愛を伝え続ける。この点もまた読み応えのある描写だ。「百合」作品に男性を登場させることは、多くのリスクがあるからだ。女性同士の関係に男性キャラクターが邪魔をしてこないかなど、その問題もクリアしている。魔法を使ってバトルもある。青乃下が作画を担当しているが、その迫力は、他の「異世界転生」マンガや「悪役令嬢」マンガと引けを取らない。

革命前夜

 筆者がこの作品がより面白くなってきた、普通の「百合」ラブコメとは一線を画している、と思えたのが3巻から伏線を張られていた「平民運動編」からだ。

 「悪役令嬢」。その令嬢という名の通りクレアは貴族である。そしてレイは平民だ。「平民運動編」では貴族の横暴さに平民が革命を起こす。その中で翻弄されるクレアやレイ、学院の生徒たち。革命の火種を抱え、「悪役令嬢」作品では王道の「バッドエンド」が忍び寄る……。

 『私の推しは悪役令嬢。』はラブコメであるが、「平民運動編」でより胸が躍った。貴族である苦しみ、平民である歓び、そしてその逆もまた然り。貴族と平民であるクレアとレイは身分を超えて、連帯して敵を倒す。まさしくシスターフッドだ。

 そして貴族と平民の仲立ちをクレアとレイが買って出るのも、二人の絆がしっかりと描かれている。そして……これ以上書いてしまうとネタバレになるので、ぜひ既刊である4巻を読んで欲しい。

 また『私の推しは悪役令嬢。』のマンガ版では原作者のいのり。が書き下ろし小説を書いている。小説を楽しみたい読者にも嬉しい特典だ。

 反発しながらも連帯を大事にするクレアとレイ。そして彼女たちを取り巻く友人や王子たち。今後の展開に目が離せない。

 マンガ『私の推しは悪役令嬢。』は一迅社より4巻まで発売中。

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