『幽☆遊☆白書』なぜ暗黒武術会で読者層が広がった? 画期的なポイントを振り返る

 主人公と敵が熾烈な戦いを繰り広げる少年漫画のバトルは、時として甲子園のようなトーナメント戦になる。どの漫画のトーナメント戦がいちばんおもしろいかは、人それぞれだろう。

 『ドラゴンボール』の天下一武道会、『キン肉マン』の超人オリンピック、『グラップラー刃牙』の最大トーナメント……主人公側が勝ち抜いていく面白さだけではなく、敗れた敵側の個性もかいま見えるのがトーナメント戦の魅力だ。

 数あるトーナメント戦のなかで、今回、私がピックアップしたいのは『幽☆遊☆白書』の暗黒武術会である。

無理やり参加させられる主人公たち

 幽助、桑原、蔵馬、飛影、そして幽助が連れてきた、後に明らかになる謎の人物。この5人から成る浦飯チームは積極的に暗黒武術会に参加したわけではない。その前の戦いで戸愚呂兄弟(特に弟)に宿敵として気に入られ、招待されたのだ。

 戸愚呂兄弟は、圧倒的な強さを見せる妖怪の鴉、そして武威と手を組み、戸愚呂チームを結成した。戸愚呂チームの優勝を観客が信じ込むほど恐ろしい妖怪たちである。なお、暗黒武術会の出場チームは五人編成だが、戸愚呂チームは決勝以外のすべてを四人で勝ち抜いており、決勝のみ戸愚呂チームのメンバーにスポンサーである人間の左京が加わった。

 一方、幽助率いる浦飯チームは、断れば死が待っているという状況で暗黒武術会の出場を余儀なくされた。前の戦いで戸愚呂兄弟の強さを思い知った幽助は、暗黒武術会で勝つため命にも関わるような激しい訓練を重ね、ほかのメンバーもそれぞれ特訓をしてから暗黒武術会に臨む。

 そんな彼らを、観客の妖怪たちはいけにえゲストとして見下している。応援するのは幽助や桑原の関係者だけだ。理由は幽助と桑原は人間であり、とうてい妖怪に勝てる相手ではないと思い込まれているからである。妖怪の飛影、もともとは妖怪だった蔵馬は、観客の妖怪たちから裏切り者呼ばわりをされる。

 つまり浦飯チームは、この残虐なトーナメント戦に出たくて出たわけではないのだ。暗黒武闘会は、殺戮の大会である。不良だが心やさしい幽助が、人を死に追いやる可能性のある大会に対して前向きであるはずはなく、仕方なくの出場であった。

読者を魅了する個性的な敵たち

 さて、暗黒武術会で行われるトーナメント戦に1回戦から勝ち進む浦飯チームは、全員『幽☆遊☆白書』メインキャラなので個性があって当然だが、暗黒武術会の凄さを知るうえで注目したいのは、幽助たちと戦う敵側の妖怪だ。彼らの戦闘能力の高さは言うまでもないことなので、ここでは能力以外の特徴を記したい。

 特に印象に残るキャラクターは六遊怪チームの鈴駒、是流、魔性使いチームの凍矢、陣、裏御伽チームの死々若丸、美しい魔闘家鈴木、戸愚呂チームの鴉、武威ではないだろうか。なお、是流と鴉は戦闘中に死んでいる。また死々若丸は、観客の中に女性妖怪のファンが大勢いることから、作中でも蔵馬と並ぶイケメンとして表現されている。

 面白いのは死んだ是流と鴉、生きていても決勝で飛影に敗北した武威を除く全員が後に再登場していることだ。暗黒武術会には女性妖怪のMCやスタッフが3人いて、彼女たちは終盤近くでそれぞれ陣、凍矢、美しい魔闘家鈴木に恋心を抱いていることを明かしている。

 作者は女性読者の心情もよくわかっている。以前の記事でメインキャラ4人のうち蔵馬だけ相手役の女性が登場しないことに触れたが、死々若丸も大勢のファンがいる描写だけで同じ扱いを受けている。これは『幽☆遊☆白書』におけるイケメンの宿命なのかもしれない。

 死々若丸については時が経ち再開した時も、浦飯チームにいまだ敵意を抱いていることが明らかになっているが、それはギャグテイストで描かれ、直後に死々若丸と同じチームだった美しい魔闘家鈴木に叱られているので、おおごとにはならない。この場面と美しい女性妖怪たちが好きな人を明かす場面は牧歌的で、すでに彼らが幽助たちの命を狙う敵ではないこともわかる。

 死んだ是流、鴉、生きているのになぜか再登場しなかった武威を含め、彼らは読者の人気が根強く、本作でトップレベルの人気を誇る飛影や蔵馬と同様に二次創作の同人誌にもよく登場する。敵の魅力が描かれるのはこれまでのトーナメント戦がある漫画にもあったことだが、ここまで読者に支持され続けるキャラが多いのは暗黒武闘会のみではないだろうか。

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