凪良ゆう「人間の中にある善も悪もフェアに書きたい」 恋愛を通して描いた人生の物語

 約2年ぶりとなる凪良ゆうの新作長編『汝、星のごとく』(講談社)が刊行された。2020年の「本屋大賞」を受賞した『流浪の月』、そして『わたしの美しい庭』や『滅びの前のシャングリラ』に続く新作となる『汝、星のごとく』では、瀬戸内の島で出会った暁海と櫂、二人の高校生が互いの孤独や欠落を補うように惹かれ合い、やがてすれ違いながら時を重ねる、15年にわたる物語が描かれる。

 今回、リアルサウンドブックでは、著者の凪良にインタビューを実施。暁海と櫂、それぞれの視点を通してロングスパンで描かれる主人公たちの変化や成長、「正しさ」から逸脱しながら己の人生を生きる登場人物たちへの思いなど、最新作について掘り下げてもらった。

これまでの小説の中でも、一番濃く自分が出ている

――作品タイトルの『汝、星のごとく』ですが、このフレーズは佐藤春夫の詩が由来とのことですね。

凪良:佐藤春夫さんの「夕づつを見て」という、とても短い詩の一節なんですが、言葉の響きに日本語独特の美しさを感じたんです。例えば、英語っぽく“You are my only shining star”などに言い換えてみると、なにか恋愛に特化したような印象になりますが、「汝、星のごとく」だと、もう少し敬虔な気持ちというか、手が届かないものをずっと見上げているような印象があります。実は、このタイトルに決める前に考えていたお話は、もう少し生々しくて殺伐とした、大人の恋愛ものでした。けれど、この「汝、星のごとく」という言葉の美しさにインスパイアされて、物語が導かれていきました。

――物語の舞台は愛媛県今治市にある島です。心理描写と重ねて描かれる美しい風景にも心を掴まれました。この場所を選ばれたのはなぜでしょう。

凪良:もともと、島というか田舎に暮らしている女の子と、そこから都会に出ていく男の子という対比の物語を考えていました。講談社の担当編集の河北さんが今治出身で、取材で案内できますとのことで愛媛を訪れてみたのですが、そのときに見た海がすごくきれいで、もう舞台はここしかないなと思いました。

――舞台としては風光明媚で魅力的な土地が選ばれている一方で、物語の中では閉鎖的な人間関係が残る場所としても描かれます。主人公の暁海と櫂はともに、母親のしがらみにとらわれ、いわゆるヤングケアラーのような立場に置かれていますよね。

凪良:はじめからヤングケアラーという設定を決めていたのではなく、どちらかと言うと書いていく経過の中で、二人がヤングケアラーなんだなとわかったんです。そのことに気づかずに書き出してしまったのは反省点ではありましたが、同時に、書いている途中で気づいたことに私自身、リアルだなとも感じました。たぶん、現実のヤングケアラーと呼ばれている人たちも、最初から自覚しているわけではなくて、致し方ない状況が何年も続く中で、結果としてヤングケアラーになっていく。気がつけばそうなっていて、抜け出し方がわからないっていうことが多いんですよね。

――そんな生活の中、孤独や閉塞から逃れる手段として、暁海と櫂はそれぞれに創作に没頭します。この二人の姿には、小説家である凪良さんご自身の姿が投影されていたりするのでしょうか?

凪良:そうですね。櫂の創作や暁海の夢に対する気持ちなど、これまで書いてきた小説の中でも、いろんな自分が一番濃く、物語のあちこちに出ていると思います。

――暁海が心惹かれる対象を、オートクチュール刺繍に設定したのはなぜでしょうか?

凪良:暁海が日々の暮らしの中で一度も見たことがないくらい、夢のように美しいと感じられるものじゃないと、一瞬で心を奪われないだろうなと思いました。なので、自分の身の回りにあるものよりも、暁海の世界に今までかけらもなかった美しいものがいいんじゃないかと、オートクチュール刺繍を選びました。

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