京アニ『ツルネ』が話題 いま「弓道」小説がじわじわ人気に 耳に弦音が聞こえてくる作品とは

 『ツルネ―風舞高校弓道部―』以外にも、読むと弦音が聞こえてきそうな小説が幾つかある。『書店ガール』の碧野圭による『凜として弓を引く』(講談社文庫)は、弓道部ではなく近所の神社に作られた弓道場で女子高生が弓道にハマっていくストーリー。引っ越し先で高校の入学式まで間があった矢口楓が、弓道場で弓を引く少年に見とれていたら6日間だけの体験会に来ないかと誘われた。

 試しに入ると最初は弓を触らせてもらえず、礼儀や作法を叩き込まれる場面に、弓道って面倒なのかもと思えてしまう。けれども、楓が基本を学び美しい所作でしっかりと弓を引けるようになっていく様子に触れると、苦労の末に成功を掴むのと同じような喜びを得られる。登場人物たちといっしょに成長していける作品だ。

 もう1冊、ミステリー作家の我孫子武丸による『凜の弦音』(光文社文庫)と続編『残心 凜の弦音』(光文社)も、弦音とタイトルにあるように弓道がテーマとなっている。『凜の弦音』は弓道部に入っている高校一年生の篠崎凜が、引退した恩師の家で起こった殺人事件を解決に導いて「天才弓道少女」と呼ばれながら、身の回りで起こるちょっとした事件に挑んでいく弓道×ミステリーとなっている。

 これが『残心 凜の弦音』になると、弓に力が入らずスランプに陥った凜が立ち直っていく青春小説の色を濃くしていく。的まで矢が飛ばなかったり大きく的を外れたりする状況を見かねたのか、ライバルで女優をしている波多野郁美が凜を誘い出していっしょに遠的をしながら、相談に乗って凜の気持ちを解きほぐす場面では友情の輝きを見せられる。その郁美が女優としての壁にぶつかり悩んでいるところに、凜が手を差し伸べる展開からは弓道が結んだ関係の素晴らしさを堪能できる。

 ミステリー作家らしく、同じ弓道部員の男子が起こしたらしい動物虐待事件の真相を解き明かしたり、先輩がいったんなくして戻って来たビデオカメラから一部の映像が消されていた理由を言い当てたりと、凜の「天才弓道少女」としての活躍もしっかりと見られるが、より深く弓道とはなにかを探る方にウエイトが置かれている印象だ。ミステリーでありながらも弓道をテーマに書いていたことで、キャラクターたちの心に気持ちが同化し、響く弦音に魅せられてしまったのかもしれない。その魔法は読者にも存分に働くだろう。

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