一家揃って異世界転生『田中家、転生する。』に注目! 5月文芸書ランキング

 すっかりジャンルとして定着した異世界転生モノは、基本的には〝生き直し〟の物語であり、その死に焦点があてられることはほとんどなく、本作でもその悲しみがしいて語られることはない。だが、突然の天災で一家全員が逝去、という設定は、事故でひとりこの世を去ってしまう、というのとはまた違うリアリティがあり、理不尽に奪われてしまった命がここではない場所で全員一緒にまた暮らし直すことができているならどれほど幸せだろうかと、想いを馳せずにはいられなかった。

 田中家改めスチュワート家は、王族や魔物とエンカウントする日常に翻弄されながらも、大いなる使命を果たしたりはしない。目的はあくまで、平穏な日常を守ること。コミカルな彼らの掛け合いに癒されながら、転生モノがこれほど読者に需要されるのは、ファンタジーとしてのおもしろさだけでなく、そこに現世にはない希望が描かれているからなのだな、と改めて思う。まだまだ、このジャンルの隆盛は続きそうである。

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