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角田光代『タラント』(中央公論新社)
2月刊行作品だが、いまだに何度も繰り返し読んでしまうほど好きで、もっともっと読まれてほしいと思うので、ご紹介したい。
主人公のみのりは48歳。何やら夢に破れ、どこか無気力な日々を送っているらしい、ということはわかるが詳細はすぐには語られない。2019年の〝今〟の隙間に、1999年のみのりが描かれて、ボランティアに参加し、自分の差し伸べた手がほんの少しでも世界を変えることがあるかもしれない、と希望を抱く若き日の姿が浮かびあがってくる。
ボランティアサークルに入った大学生のみのりは、海外の貧しい子どもたちに触れあい、野心を抱く友人たちに触発されながら、自分のなすべきことを模索していく。だが、手を差し伸べるというのは、そう簡単なことじゃない。国を超え、自分とは異なる社会背景で困窮する相手ならば、なおさらだ。自分の使命感がいかに独善的でちっぽけなものだったか、みのりはしだいに思い知らされることになる。
けっきょく世界を変えることができるのは、神様から使命を与えられて、突き動かされるように前に進み続けていくタラント――才能を持った人たちだけなのだと、みのりは思う。ところが、しがない高知のうどん屋だと思っていた義足の祖父が、パラリンピックに関わる意外な過去を秘めていたことを知り、みのりの心は少しずつ動き始める。
本作で描かれるのは決して美しいものばかりではない。主人公なのに誰よりもどうしようもない弱さを抱えたみのりを通じて、読者である私たちも自分の弱さや醜さを突きつけられる。
だが、それでも。むしろ、だからこそ。
タラント、なんてものがなくても。自分の人生や存在に〝意味〟なんて見出せなくても。手に入れた希望よりも、零れ落ちていったものに対する後悔や絶望のほうが大きかったとしても。人がこの世に生を受けて生き続けている限り、そこに意味はあるのだという光を見いだすことができるのだ。