本から出会いが生まれる、読書マッチングアプリとは? チャプターズ書店・森本萌乃に聞く“ロマンチックな選書”
「それはロマンチックか?」を考え続けて
森本さんがチャプターズを運営していく上で大切にしているのは、「ロマンチック」であることだ。言い換えると、予期せぬタイミングでドキドキ、ワクワクすること。
チャプターズでは基本、マッチングする相手と共通しているのは「同じ本を読んでいる」ことのみ。条件を細かく指定するマッチングアプリとは一線を画している。便利、快適、安心安全だけでは解決しないこともある、と森本さんは言う。
「なんでも便利、簡単になってしまうと、逆につらいのかなと思ったりもするんです。けど、本棚の前で手が触れ合うような『現実で過ごしていたら絶対起こり得ないこと』は、テクノロジーの力を使うことで実現できることもある。そこはバランス良く考えていきたいと思っています」
マッチングアプリや結婚相談所では、身長や年齢、職業など「好みのタイプ」を選んだ上でマッチングする。しかし恋愛はそんなに単純なものではないし、「タイプ」以外の人を好きになることも大いにあり得る。ちょっとした出会いからはじまる恋もある。
「たとえば同じ飛行機で隣になった人のことが気になっても、すぐには話しかけられないけど、同じ映画を見てたらそれを糸口に話しかけたくなったりしませんか? そういうちょっとした共通点をどんどんかけ合わせることで、ロマンチックな出会いをつくりたいって思ってるんです」
相手の情報がよくわからないからこそ、感情が揺さぶられる出会いとなることもある。会社でも、判断に迷ったら『どっちがロマンチックかな?』と話しているそう。心が動く感情が、予期せぬ時に来るかどうか。ドキドキワクワクしながら過ごせるか、が森本さんの判断軸になっている。
リアルに飛び出したチャプターズ書店
この3月からチャプターズでは、マッチングのロジックを強化するためにCCCマーケティング株式会社との提携を始めた。従来の本でのマッチングに加え、サイト内で登録しているユーザーのデータとCCCの持っているT会員データをAIによりかけ合わせ、ぴったりの人をおすすめしてくれるサービスが始まっている。
その縁もあり、全国3カ所の蔦屋書店でリアルの「チャプターズの本棚」企画が実現した。これまで1年間選書してきた48冊のバックナンバーを一挙に陳列。実際に本を手に取って選んでもらう試みだ。すでに実施した北海道・江別の蔦屋書店では反響が大きく、書店員の方も驚くほどだったという。
高知・蔦屋書店で5月9日までキャラバンが実施され、5月4日からは中目黒の蔦屋書店でも開始した(中目黒での選書は24冊)。特に中目黒は森本さんが以前住んでいた街で、街の中心のような存在の蔦屋書店での開催に感慨深さを覚えると話す。
「ここの本棚でチャプターズと出会ってくれる方たちは、ネット上で検索したりではなく本当にふらっと来てくれる方、日常の延長戦上で出会ってくれる方も多いと思うので、それこそロマンチックな出会いだなとワクワクします。実際に本棚を見たら、泣いちゃうかも(笑)。すごく楽しみですね」
もっと楽しい「読書体験」を
今後の展望をたずねると、「起業以来、いつも今が超しんどいっていう感じで、この先って特に考えられないんですよね」と笑いながら続ける。
「本屋さんで手を重ねた出会いを作りたい、って思ったあの時の私からすると、もう夢は叶っているんだ、と思って毎日生きています。あとはそこに対して自分の現実と理想をどう寄せていくかだなって思っています」
この先は考えていないといいつつも、本以外にもブラインドで映画を見て、それを語り合うなんてのも面白いですね、とアイディアを話す。
夢が叶った森本さんに改めて「本」の価値について聞いた。
「本の市場って年々縮小してると言われていますが、それでも1兆円の市場なんですよ。どこかで下げ止まるとも思っていますし、今までとお金の取り方が変わってくるのはあると思うんですが、絶対に未来に残っていくものだと思っています。
『読書』って無形の価値があるものなので、その体験はなくならないと思う。チャプターズは読書体験を楽しくするサービスとして作ったので、もっとそれを伝えていけるといいなって思います」