TikTokクリエイターけんごが語る、初小説『ワカレ花』への挑戦「これから初めて小説を読む方を意識した」
「小説紹介クリエイター」として、TikTokで28.4万人(※4月18日現在)のフォロワーを持つけんご。20年11月からTikTokを始め、数々の小説をバズらせてきた彼が、このたび4月28日に初の著書『ワカレ花』(双葉社)を発売する。学校などを舞台とした、花をモチーフにした恋愛小説だ。数多くの小説を読んできた彼に、小説を書くことになったきっかけや初の著書に込めた思いについて聞いた。(藤井みさ)
みんなが「読みたい」ものを書きたかった
――小説を書こうと思ったきっかけはあったのでしょうか。
けんご:小説紹介をしていくうちにいろんな出版社の方と知り合って、冗談半分に「けんごくんも書いてみたら」なんて言われてたんですけど、まったく「書く」ことを考えたこともなかったので「それは難しいですよ」みたいな話をずっとしていて。その中で双葉社の編集者の方が、冗談ではなく熱烈に、「本気で書いてみませんか」とお話ししてくださったんです。3週間ぐらい考えて、書くと決めました。文章を書くことは好きだったんですが、小説を書くとは考えてもみなかったので、大きな決断でした。
――実際に書きはじめてみていかがでしたか。
けんご:書くことは決まったけど、僕、書きたいものがなかったんです。何を書けばいいんだろう、というのが最初の壁でした。でもその分、僕を応援してくださっている方が楽しめるようなものを書こう、と思うようになりました。SNSで発信しているといろんなコメントをたくさんいただくんですけど、「こういう小説があったら読みたいんですが、知りませんか」という内容のものがけっこうあったんです。その中でも少し悲しい恋愛の話や、先生と生徒の恋の話を求めている方が多かった。
僕のフォロワーの方は、10代から僕と同年代までの世代がほとんどです。みんなが読みたいとコメントしてくれたものをかき集めていったのが、8つの連作短編からなる『ワカレ花』なんです。ほんとうに今までの活動がなければ絶対書くことができなかっただろうな、と改めて思います。
いつも自分を応援してくださる方に届けたいというのはもちろんですが、これから初めて小説を読む方に向けて、というのも意識しました。僕自身の読書始めは大学1年と遅かったんですが、読書していなかった中高生の僕が初めて読む小説がどういうものだったら読書の面白さにハマれるだろうとか、そういうことを考えながら書きました。
――本の大きなテーマに「悲恋」と「花」がありますが、けんごさん自身の実体験も入っているのでしょうか。
けんご:悲恋、ということに関しては僕自身の経験はないですね(笑)。花に関しては、僕は福岡の田舎出身なんですが、母がガーデニングが好きな人で、庭もすごくきれいにしている人なんです。幼少期の思い出を振り返った時に、自然や花の光景がふっと思い浮かんできて、その光景を思い浮かべながら書いていったところもあります。物語の中にユキヤナギが出てくる場面があるんですが、実家の近くに一面真っ白に咲いている場所があったんです。小さい頃は花の名前なんて知らなかったんですけど、調べてみたら素敵な名前だな、とわかったり。そういう自分の思い出はちょっとずつ投影されています。
――まず本を開くと、短いプロローグに続いて著者からの言葉。斬新だなと感じました。
けんご:8章のストーリーすべてが繋がってるんだよということを、最初に提示したいと思ったんです。だからプロローグを極端に短くして、その後にまさかの著者からのメッセージで「えっ」て思ってほしくて。冒頭のつかみがものすごく大事かなと思っていて、これはいままで動画でも培ってきたものかなと思います。「どうすれば物語に没頭してもらえるかな」というのは、常に考えて書いていましたね。
悩んだ末に降りてきた結末とタイトル
――物語は2つの大きな流れが別々に進んでいって、最後に少しだけ交わるという構成になっています。その交差の仕方はけんごさんならではだと思いました。
けんご:せっかく僕が書くなら、いままでにないような小説を作りたいという気持ちがありました。挑戦的なことをしたいなと。実はラストの場面についてはぎりぎりまで思いつかなくて、編集さんと「どうしたらいいだろう」とお話をしながら相談して、いろんなご意見をいただきながらやっと思いついた場面だったんです。その時は「なるようになるんだな」と思いました(笑)。
去年の9月の下旬ぐらいに本を書くことが決まって、10月から1カ月ぐらいプロット作成にかかりました。11月から本格的に本文を書き始めて、2カ月ちょっとで書き上げた感じです。連作短編という形をとっているので、一章が完成したらすぐ編集さんが見てくださるというのを繰り返しました。編集さんが僕が最短で書けるように計算してくださったり、伴走してくださって。それがなければもっと時間がかかっていたと思うので、本当にありがたいと思っています。
――編集者との印象的なやりとりはありますか。
けんご:書いている間は1~2週間に1回は双葉社さんに来て、ずっと打ち合わせをしてました。その中でもやっぱり結末を決めた時と、タイトルを決めた時がすごく印象に残っていますね。
タイトルに関しては、10数個のタイトル候補があって、それを見てすごく悩みました。やっぱり若年層の方を意識すると、今だと長めで、ぱっと見で内容がわかるようなタイトルが受けているなと思っていたので、最初はそれを意識していました。でもせっかくやるならもっと挑戦的なものにしたいとお話しして、どうしようって考えていた時に「ワカレ花」ってタイトルがふっと降りてきて、「もうこれ以外考えられない」と思えたので、これでいこう、と決まりました。
――表紙もとても印象的なイラストです。桜の花が散る中に一人の女の子が本を抱えていますね。
けんご:双葉社さんのほうでイラストレーターの方を何人かピックアップしてくださったんですけど、萩森じあさんのイラストを拝見した時に一目惚れして、「この方がいいです」とお願いしました。直接お会いしたことも話したこともなかったんですけど、もう全面的に信頼して、こちらからは何もオーダーしなかったんです。それで「これしかない」ってイラストを描いていただきました。きっと読者さんも気に入ってくれるんじゃないかなと思います。
実はこの女の子は登場人物の誰かなのか、そうじゃないのかというのは、僕も編集さんもあえて聞いてないんです(笑)。しばらく聞かないでおいて、みんなで考える余地があってもいいかなって思ってます。