歴史時代小説に“凄い新人”現る! 夜弦雅也『高望の大刀』の大胆不敵な荒技

 しかし、このような荒技を躊躇なく使う作者だからこそ、本書は痛快極まりないエンターテインメントになった。前半に出てきた利仁や好風も活用した戦の場面は、血沸き肉躍る面白さだ。

 しかも高望の人生を通じて、作品のテーマが浮かび上がってくる。自分も含めて、権力に蹂躙される人々がいる。こんな世の中でいいのか。さまざまな苦い体験をした高望は、やがて民に尽くす武門の領袖を目指す。それは、彼の名前のように〝高望み〟なのかもしれない。だが、自分の信じた道を切り拓かずにはいられないのだ。そしてそれにより、武士という存在が生まれたのである。高望の怒りと望みは、現代を生きる私たちにも当てはまる部分がある。だから本書は、こんなにも熱いのだ。

 なお、ちょっとしたところだが、作者のセンスを強く感じた部分がある。高望が罪人として京の都から上総に送られる途中で見る不尽山(富士山)が、煙を噴き上げているのだ。富士山が活火山であることはよく知られているが、実際に思い浮かべるのは煙ひとつない静かな山だろう。しかし本書の時代は、まだ噴火の記憶も生々しい。そんな富士山の姿を、作中で表現した。過去を幻視するセンスがあればこそだ。優れたストーリーだけでなく、こうした些細な描写からも、作者の歴史時代作家としての力量が伝わってくる。本当に、凄い新人が現れたものだ。

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