ゴルゴ松本×宮口幸治が語り合う、少年院の子どもたちに必要なこと 「笑いには免疫力をあげるような効果がある」

漢字を通してメッセージを伝える理由

宮口幸治『ケーキの切れない非行少年たち』(新潮新書)

宮口:講演では漢字のお話をするそうですね。「息抜き」を「生き抜き」と考えたりと、発想の豊さを感じながらとても楽しく読みました。普通は考えつかないようなアイデアですが、ゴルゴさんご自身で思いつかれたのでしょうか?

ゴルゴ:僕は非常に本を読むんです。たとえば、日本の歴史を知りたいと思う。自分の先祖はどんな時代を生きて、今の自分にどう命をつないでくれたのか知りたくて。今みたいな便利な時代じゃないですけど、当時は最先端の時代を生き抜いているわけじゃないですか。目の前の生活を必死に生き抜いて、命をつなげてきた。戦争があった時代もあったけれど、子孫は歴史を学ぶことでそれはよくないことだと理解していく。

 本を読んでいると、本当にいろいろな考えのいろいろな職業の人がいる。でも生きるということは共通していて。そんな風に本を読む中で、日本語というのは、言葉遊びがいっぱいできるキーワードがたくさんあることに気がつきました。そこに僕なりの解釈も含めて、人に説明するんですね。

――ゴルゴさんの漢字の解釈で印象に残ったのは「十」についてでした。人生が苦しく死んでしまいたいと思う人がいたら、死ぬ前に「十人のお手伝いをしてください」と言うそうですね。宮口先生も「支援をする側が逆に元気をもらっている」という視点があると指摘しています。人は誰かの役に立つことによって、幸せを感じられると。すごく共通点があると思いました。

ゴルゴ:この「十」はシンプルな文字ですが、とても深い意味があります。「一」(マイナス)に「|」(縦線)が入って「十」(プラス)。これは人生と同じで、いいこともあれば、悪いこともある。辛いことがあっても、楽しい未来に変えることができる。

 「十」は手の指の合計本数でもありますね。赤ちゃんは「十月十日」で生まれると言われている。つまり人間に備わった数字なんです。それが世の中を動かしているわけじゃないですか。

 夢が「叶う」にも「十」があるし、「協」力するにも「十」がある。横軸と縦軸が重なって、宇宙を構成していると思うんですよね。この地球上に生きている命すべてが、「十」という数字と関連があって、何か秘密があるんじゃないかと思っています。

 だから死にたいと言う人に対して「死ぬ前に十人の手伝いをしてくれ」と言うんです。すると、絶対「ありがとう」「助かった」など、何か感謝の言葉を言われるんですよ。その言葉には、エネルギーがあると思っています。そこで何か気持ちの変化が現れれば、一人の命が助けられるかなと。

宮口:「十人に」という具体的な方法は、すごく役に立つと思います。死にたいという人がいると、我々はどうしても死なないための考え方など概念的なところで説教してしまいがちです。でも具体的に「十人にお手伝いをする」というのは、すごく実践的で素晴らしいと思います。やってみようという気持ちになりますよね。

ゴルゴ:この発想は少年院で感じたことともつながっています。少年院の子どもたちが、老人ホームでお手伝いをするじゃないですか。お年寄りの方達は、孫くらいの世代の少年たちにやさしくしてくれるんですね。お父さんやお母さんは、仕事や家事で忙しくて話を聞いてくれなかったかもしれない。昔は学校から帰ってきたら、家におじいちゃんやおばあちゃんがいる環境もあったのですが。

――そういう安心・安全のある環境というのが、支援をする上でとても大切だと宮口先生はおっしゃっていますね。

宮口:安心・安全があって初めて、新しいことをやってみようという気持ちになりますよね。気持ちの問題だけじゃなくて、食べるものがある・寝るところがあるといった基本的な条件を全部ひっくるめた上での安心です。そこが意外と抜けてしまっているところなんです。

少しでも世の中の意識を変えていきたい

――宮口先生は著作『どうしても頑張れない人たち』で、仕事や勉強などについて「どうしても頑張れない人たち」が存在することを指摘しました。そういう子たちが少年院には多いと。

宮口:頑張っている健気な子は、応援したいと思うじゃないですか。逆に怠けているように見える子、頑張らない子たちに対しては、普通はあまり助けたいという気持ちが出てこないですよね。でも実際に支援が必要なのは、後者の子たちなんです。そこでどういう風に向き合っていくか。すごく難しいところです。

 授業ですぐ手をあげて答えてくれる子は大丈夫なんですけど、そこで答えない子がどうしてもいますね。どういう風に参加して楽しんでもらうか、しっかり学んでもらうか。それを考えることはすごく大事です。

ゴルゴ:先生は支援者を支援しなくてはいけないとも指摘していました。保護士の人や家族の人に対する支援をする環境づくりが重要ですよね。ちょっとしたやり方を変えるだけで、空気は絶対に変わると思います。世の中の全員に浸透させるのは難しいにせよ、支援者の人たちの考え方が1ミリでも変われば、未来はその波動で変わっていく。そういう変化は、子どもたちも敏感に感じ取る。だからみんな本当に先生の本を読んでほしいですね。

宮口:我々の意識をまず1ミリでも変えるところからですね。身近なところから始めるしかないと思います。SNSで本の感想を見ると「犯罪者への見方が変わりました」というコメントがありました。それが本を書いた目的でもあったので、ちゃんと読んでくださって、すごくありがたかったです。

ゴルゴ:世の中には、犯罪者は犯罪者なんだと決めつけてしまう人もいるけれど、その経緯や本当の問題について理解がある人もいますから。そういう考え方を伝えていくことで、支援者が支援される環境を作る。そして支援がやりやすくなって、さらに支援者が増えていく。そういう広がりに貢献できたらいいなと思っています。

 僕は芸能界で売れることを目標にやってきました。自分が思い描いていた目標には到達しましたが、その先は違う方向に行きました。それは少年院に通うことや、漢字の本を出すことだった。自分が当初描いていたことと違うけれど、ずっとやり続けているからこそ、未来につながっていきました。そうしたなかで、先生と対談することもできました。

 今後も自分の興味があることを学びながら、表現者として世の中にいろいろなものを提示して、何か恩を返していきたいんです。それが僕の使命でもあるし、運命でもあるし、宿命なのかなと思っています。

宮口:素晴らしいと思います。犯罪は決して許されませんが、犯罪者を憎み罰するだけでは何も解決しないのです。加害者、被害者を生まない社会を作ることが大切であり、まさにゴルゴさんのような取り組みがその一環なんだと今日の対談を通して改めて思いました。ぜひ少年院での活動を継続して頂きたいです。

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