サラ金は個人間の金の貸し借りからはじまった? 新書大賞『サラ金の歴史』が示す、意外なルーツと功罪

 もう一つ忘れてはならない本書の魅力であり美点が、サラ金を悪と断罪せず、優れた面も紹介する中立性である。たとえば、大手サラ金の創業者たちの経歴と経営理念を検証していくと、「信頼の輪」(アコム創業者・木下政雄)、「人間的な顔をした金融システム」(プロミス創業者・神内良一)、「人を活かす金貸し」(レイク創業者・浜田武雄)など、高潔な経営理念を持って会社を立ち上げていたことがわかる。

 加えて、サラ金は業務のデジタル化やオンラインでの融資申込サービスの開設など、ITの導入にも積極的だった。今ならテレビ番組『ガイアの夜明け』で紹介されそうな、進歩的な企業という顔も持っていたのである。だが一方で、上司に感情をコントロールされた末端の社員たちが、「こいつら人生の負け組なんだ」と自分に言い聞かせながら債務者を追い詰めるブラックな労働環境から、サラ金の理想と現実のギャップも浮かび上がる。

 過剰な貸付や過酷な取り立てが問題視され、それを受けての改正貸金業法成立(2006年)による規制強化で、サラ金業界は規模を縮小していった。だが悪役が表舞台から退場した現在、今度はインターネットやSNSを利用した個人間金融が発達するなど、めでたしめでたしとは言えない状況にある。行政の支援を受けられなかった人々のセイフティネットとしてサラ金が機能する、奇妙な現象も起きている。貧困や格差を解消する社会を作るにはどうしたらいいのか? それを考えるヒントはそれこそ、時代の動きに合わせて金融システムを更新し続けてきた、サラ金の歴史に詰まっているのではないかと思えてならない。

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