『ミステリと言う勿れ』整のおしゃべりはなぜ人を虜にする? “人に伝わる話し方”を考察

※本稿にはドラマ『ミステリと言う勿れ』(フジテレビ系)の「第7話(episode. 5 後編)」ならびに原作コミックス5巻までの内容を含みます。ご注意ください。

 電子コミック配信サービス「めちゃコミック(めちゃコミ)」の「2021年年間ランキング」で1位を獲得した『ミステリと言う勿れ』(1)。本作を原作としたドラマは民放公式テレビポータルサイト「TVer(ティーバー)」において、歴代最高となる放送初回の1週間見逃し配信再生数を記録するなど、2022年に突入してからも大きな話題を呼んでいる作品だ。

 SNSでは、ドラマ版で菅田将暉が演じる主人公「久能 整」(くのう・ととのう)の“おしゃべり”に関する多くの感想が投稿されている。整が事件だけではなく、登場人物の苦悩を会話によって解きほぐすシーンは、本作の魅力として欠かすことのできない要素だ。なぜ整のおしゃべりは多くの人の心を掴み、解きほぐすのか。本稿では整のおしゃべりの特徴を考察していきたい。

人に伝わる要素を満たしたおしゃべり

 整が話す内容の特徴として、一見本筋に関係なく思えることも含めて、幅広い知識からエビデンスと言えるものを示し、相手を納得させるケースが多い。

 コミックス1巻「episode2【前編】会話する犯人」で整は、大隣署「池本優人」巡査に対し、メジャーリーグの選手や監督の多くは家族のイベントで試合を休むことがあると話し、また2巻「episode2【後編】犯人が多すぎる」では日本で認知症を患う人の徘徊が問題となるなか、オランダには認知症の人が自由に歩くことのできる施設があることを話す。どんな文脈でこうした話が出てくるのかは原作をチェックしていただくとして、いずれにしても場面に応じて効果的な知識を披露することが、相手の気持ちを解きほぐすことにつながっているのだ。

 NHKアナウンサーの話し方について記した書籍『誰からも好かれる NHKの話し方』(一般社団法人NHK放送研修センター・日本語センター)にて、以下のような記述が存在する。

「感動する映画です!」と押しつけるよりも、
「9割の人が涙した」という事実のほうが伝わる

 本書では聞き手の共感や感動を得るために、言葉を尽くすよりも目の前の事実を伝えることを推奨している。上記の内容は個人的な意見の前に、関連する事実を提示することの多い整の会話と重なる部分が大きい。

 また「episode2【前編】会話する犯人」にて、秩序の保たれている日本で乗客に刃物を向けるバスジャックの犯人を、水泳大会にやってきて棒高跳びしたいと言っているようなものだと、整は例えを交えながら話した。「暴論」は時として説得的で、うまく突き崩すことができないこともあるが、整はこの例え一発で、相手の理不尽さを再認識させてみせた。

 『TED 世界を魅了するプレゼンの極意』(アカッシュ・カリア、月沢李歌子[訳])など、多くの書籍で身近な「例え」を使うことでスピーチに具体性が生まれ、聞き手が理解しやすくなると解説されている。このように、整のおしゃべりは人に伝わるための要素を満たしている。ゆえにわたしたちは整のおしゃべりに納得感を覚えるのだろう。

 ただ、整は上記の要素を満たすことを意識しておしゃべりをしているのだろうか。

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