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『愛しのレスリー: 「ベイ・シティ・ローラーズ」日本人妻の愛と葛藤の42年』ケイコ・マッコーエン
2021年4月21日に亡くなった、ベイ・シティ・ローラーズのボーカリスト、レスリー・マッコーエン。その妻であるケイコ・マッコーエンが、レスリーとの出会いから死別までの出来事を綴ったのが本書『愛しのレスリー:「ベイ・シティ・ローラーズ」日本人妻の愛と葛藤の42年』である。
アルコール中毒の症状、ケイコ氏に対する暴言や、男女問わない数えきれないほどの浮気(17歳の時に男性からレイプ被害を受けて以来、バイセクシャルとなったため、相手には男性も含まれていたという)など、衝撃的なエピソードに事欠かず、その赤裸々な描写も本作の注目点だが、それ以上に胸に迫ってくるのは、レスリーがどれだけ音楽とファンを大切にしていたか、ということがわかるエピソードだ。
例えば、重度のアルコール中毒で、何度注意しようともやめられなかった酒を、ツアー中だけは断つことができた。それは喉の調子を保つためだったという。大きな問題を抱えながら、レスリーが音楽活動を続けられたのは、70年代から彼を応援し続けた世界中のファンとの絆があったからに他ならない。生活がどれだけ荒れても、ファンは裏切らないーー映像で観る、レスリーの日本公演はどれも素晴らしい(なぜ行かなかったんだ!と後悔……)。極上のロックンロールを、それも本当に楽しそうに披露しているのだ。
ケイコ氏は来日公演を振り返り、こう書き残している。
“やはり日本にも、レスリーに会いたい、レスリーの歌うライブに行きたい、と思ってくれる人たちがまだまだいるのだと知って、彼も私も勇気付けられていた。”
そう、熱心に応援し続けたファンがいなければ、この名著も生まれず、レスリーという人間を真の意味で理解することはできなかったのである。(佐々木康晴)