文筆家・木村綾子が月10冊を選書 多彩な企画と本を届ける書店「コトゴトブックス」の挑戦

 本にまつわる斬新な企画を続々と手がける本屋「コトゴトブックス」。2021年8月のオープン以来、オンラインストアとして店を構え、店主の木村綾子さんが面白いと思った本を毎月10冊選書。オンラインで視聴できる対談動画や読書会の参加チケット、本から連想されるグッズといった特典がつく。

 文筆家、ブックディレクターなどさまざまな肩書きを持つ木村さん。2012年、下北沢の「本屋B&B」の立ち上げから8年半イベント企画として携わり、蔦屋書店で本の企画や制作にかかわったのちにコトゴトブックスを開いた。毎日欠かさずイベントを開催するB&Bでの経験が、個性豊かな特典に存分に生かされている。コトゴトブックスを始めた経緯や活動内容、本を読むことへの思いについて聞いた。(小沼理)

読書体験を豊かにするために

コトゴトブックスのウェブサイト

「コトゴトブックスは、作者からあずかった本に、作者とともに企画した特典を添えて、一冊一冊丁寧に、あなたに向けてさしおくっていきます。」

 白が基調のミニマルなデザインのサイトを開くと、看板代わりのロゴの下にそんなステイトメントが掲げられている。スクロールしていくと、本の写真がずらりと並ぶ。実際に手に取ることはできなくとも、写真からは表紙の手触りや本の厚みをうかがい知ることができる。

 【オンラインイベント参加チケット付き】【インタビュー動画付き】など、本にはどれも特典がついている。本の紹介文で綴られているのは、店主・木村さんの本への思い。時に主観が入り混じるからこそ、熱量が高い。

「オンラインで書店をはじめる時、やっぱり意識せざるを得なかったのはAmazonでした。品揃えも豊富でワンクリックで買えるので、私も本屋で必要な本が見つからない時や急いでいる時に利用します。そんな風にワンクリックで買える本にも、作者の体温のようなものを添えられたら、クリックする瞬間も届くのを待っている時間も、もっとわくわくできるんじゃないかと考えました。それで、『これがいいと思いました』と胸を張って言える本を選んで、読書体験が豊かになる特典と一緒に届けようと考えたんです」

コトゴトブックスの木村綾子さん

 月10冊の選書の基準は「読んで面白いと思ったこと」が第一。好きだという純文学作品を軸に、料理本、カルチャー本、絵本など、多くの人に興味を持ってもらえるよう、幅広いジャンルからのセレクトを心がけているという。

 特典は本を読みながらじっくり考える。これまでの企画を見てみると、「本を読む前には決して見ないでください」と注意書きが添えてある、道尾秀介さんのミステリー小説『N』のネタバレトーク動画、芥川賞候補作で太宰治の『女生徒』を下敷きにした小説『Schoolgirl』の著者・九段理江さんに、太宰治研究をライフワークとする木村さんがインタビューする動画などバラエティ豊かだ。

 コトゴトブックスオリジナルのグッズを製作することもある。アアルトコーヒー店主の庄野雄治さんによるアンソロジー本『コーヒーと短編』の企画では、本に合う特別焙煎のコーヒー豆を特典にした。渋谷直角さんの『世界の夜は僕のもの』では、90年代が舞台の作品内容に合わせ、当時流行したチープな薄い生地のトートバッグを製作。ノベルティの定番ともいえるトートバッグだが、当時の雰囲気にこだわることで他にないものに仕上げた。企画は木村さんが思いつくこともあれば、著者から提案されることもあるという。

「平野啓一郎さんの『ある男』の特典として、サムペンという指にはめて使うペンを作りました。サムペンは平野さんが昔からあたためていた企画で、文房具メーカーに打診して断られたこともあったそうで(笑)。『作りたいんだよね』と言われて、燃えましたね。平野さんの昔からの読者に3Dプリンタを使える方がいて、試作を重ねながら実現に至りました。無理難題でしたが、攻略しているあいだはずっと『作家の方や、読者はどんな顔するかな』と考えていられます。本を読んだ時のわくわくする気持ちを、なるべく長引かせたいんですよね」

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