“定番外”の謎メニューを求めて 好奇心と食欲をそそる食レポ漫画『いつか中華屋でチャーハンを』

 デザイナー兼ミュージシャンの増田薫による食レポマンガ『いつか中華屋でチャーハンを』。食レポマンガ数多かれど、これほど食べたくなる、そして街に出たくなるレポはなかなかない。

 まず絵がいい。美大出で酒飲みの増田は、おいしそうな色をとらえて絵にする力がめちゃくちゃ高い。特に黄色の使い方がうまくて、天津丼の卵、パンメンの麺、ラーメンに浮いた脂などが紙面で柔らかく光る。中華屋だから脂っこいメニューが多いのに、水彩で描いているから重たく見えないのもいい。食欲が刺激される。

 その上、好奇心を刺激するのがうまい。

 「中華屋でチャーハン」という、一見すると当たり前の行為をあえて「いつか」と表現するタイトル。これは、増田が知人に「中華料理屋にあるカレーって一体誰が食べているか気になる」と言われたことによる。気になって中華料理屋で「定番以外」のメニューを食べ歩くようになった増田は、いつの間にか定番中華を頼まなくなっていく。

 ただ料理を食べ歩くだけなら「おいしい」で終わりだが、本書で食べ歩くのはおもに「定番以外」。あまりにローカルすぎて、地元の人がローカルと思っていない料理や、異文化中国のなじみのない食材など、それぞれが小さな謎を抱えている。

 たとえば、「広島の天津飯あんかけ多過ぎ問題」。広島の天津飯がどっぷりとあんに浸かっていると知り、広島まで天津飯を食べにいくのだ。「あんの量が普通より多い天津飯」という、珍しいかどうかすらピンとこない小さな違いを求めて。

 広島で食べた天津飯は、本当にあんが多く、ごはんも大量だった。作中の言葉を借りると「あんかけ海ばつ2ミリくらい」。米をいくら掘っても常にあんがかぶってひたひたになるので、ボリュームがあるけどスルスル食べられる。

 次のお店は1964年からやっている老舗の中華料理屋。これまたあんたっぷりの、だけど上品な味わいの天津飯。お店の人に話を聞いてみると、「昔は近くに大学があったので、若者のために卵とごはんを増やし、食べやすいようにあんをたっぷりにした」という。

 さらに次のお店の天津飯は味ががつんと濃いめ。「近くに工場が多いので、働く人たちの好みに合わせた味になったのではないか」と増田は予測する。そして、瀬戸内工業地帯に属し、戦後製造業が盛えた土地・広島だからこそ、ボリュームたっぷりのあんかけたっぷり天津飯が定着したのではないかとも。

 2軒のお店で聞いた話から、戦後復興のためにもりもりごはんを食べる広島の人々を想像する増田。小さな謎を追っているうちに、街の歴史とそこに住む人々の姿が浮かび上がり、料理に愛着がわいてくるのだ。

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