『しあわせは食べて寝て待て』グルメ漫画としての新しさとは? 心身の健康に向き合う薬膳の力

 仕事に奮起するために、健康な日々を過ごすために。暮らしに食べ物が与える影響が大きいことは多くの人が知っていることであろう。しかし忙しい日々を送るなかで食事に対する意識や優先順位は低くなってしてしまう人も多いのではないだろうか。

 「このマンガがすごい!2022」オンナ編の第8位に選ばれた『しあわせは食べて寝て待て』はせわしない日々を送る人にとって食事の価値、そして健康であることのしあわせに気づかせてくれる作品だと感じる。

食事の楽しむリアルなさとこの姿

 小さな事務所でパート社員としてはたらく38歳の女性「麦巻さとこ」。以前は建設関係の会社に勤めていたがとある病気を患い休職することとなった。職場に復帰にするもうまくなじめず、会社で感じるストレスが病気の回復にも影響する。そのあと会社を退職しデザイン関係の事務所で週4回パート社員としてはたらくこととなった人物だ。

 マンションの更新を期に家賃の安価な場所としてとある団地を内見した際、さとこが出会ったのは大家さんである92歳の「美山鈴」さん。美山さんはさとこに様々なおもてなしをする。ネガティブに捉えてしまうことの多いさとこは団地の住人との付き合いや料理を楽しみながら、自分のペースで暮らし病気と付き合っていく。

 さとこが元気を取り戻していく過程において、薬膳の存在は欠かすことができない。のどの炎症に作用する生の大根や、消化機能を整えると言われているトウモロコシなど、食材が身体に与える作用が登場人物たちによって語られる点は本作の特徴といえるだろう。

 身体に良い影響を与える薬膳について楽しそうに語りながら、さとこは食材を口に運ぶ。さとこが薬膳に対し悦びを感じるのは、自身で薬膳の効果を実感しているからであろう。

 また本作の作者である水凪トリ氏はさとこと同じ症状を抱える人物だ。薬を服用する頻度を減らすため薬膳に興味をもち、SNSには自身がつくる料理の写真を投稿している(参考:待望の漫画発売!『しあわせは食べて寝て待て』。水凪トリさんインタビュー。【前編】「人それぞれの『心地いい』を見つけられれば」)。作者の実体験が題材となっているからこそ、さとこの苦しみや悦びはリアリティを増す。

 コンビニエンスストアでは多種多様な料理を購入することができ、そのクオリティは様々なTV番組で取り上げられるほど年々向上している。美味しい料理が容易に手に入りやすい現代の日本だからこそ、食材に含まれた栄養素を知りその効果を実感するさとこの姿は、新鮮な、もしくは本来の食事の楽しみ方を提示してくれる。

※以降、第2巻のネタバレが含まれます。

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