小林直己が語る、夢を追い続けることへの覚悟 「あえて発信することで、自分に発破をかけている」

夢はプレッシャーにもなりかねない

――“半自叙伝的エッセイ”と謳っている通り、ご自身の人生を振り返る場面もあれば、クスッと笑える日常のエピソードや自己啓発本のようなアドバイスもあり、内容にかなり振り幅があるのもこの本の特徴です。多角的な思考をまとめて1冊の本にするにあたって、工夫したことはありますか?

小林:先ほど「読みにくいところもある」と話しましたが、知り合いのデザイナーと相談して、一目で理解できるように絵を載せることにしました。デザイナーに言われたんですよ、「直己さんの視点で考えると、人生はテトリスみたいですね」って。

――目次の後に載っているイラストには、そういう意図があったんですね。

小林:その時々で自分の選択したことが、奇跡となって積み重なっていくんですけど、たまに上手くはまらなかったりするんですよね。変な隙間が1つだけ空いちゃって、うわぁー!ここがはまってたら最高だったのに!って、人生が全部失敗したような気持ちになったりするんです。でも、そこに次の小さな奇跡を上手くはめることで、本来1列しか消さないはずが、4列一気に消せるかもしれない。僕もこの連載を書いていた時は視覚化できていなかったけど、このイラストを見て納得できました。

――本文にも「夢というものは、いろんな形で叶っていく。また、叶うタイミングも、本人も予期せぬものだったりする」という一節がありますが、実際に経験された直己さんの言葉は説得力がありますね。でもその一方で、現代人の多くが“夢”を持てない理由や“夢”を叶える厳しさ、それでも“夢”を熱く語り続ける意味など、現実的な側面を記されているのがとても印象的でした。改めて、直己さんが夢を語る理由を聞かせてください。

小林:本文にも書いたんですけれど、夢って力になる場合もあれば、プレッシャーにもなりかねないものだと思うんですよね。夢を持てない人に夢を持て!と言えば、ハラスメントになりかねないし、僕自身も夢を持てずに悩んだ時期があったし。でも同時に、僕が参加してきたグループは夢をキーワードに活動してきて、夢は僕の一部分として身についているものだから、それを活かしたいという願いも込めて夢を発信し続けています。と言っても、この先の僕の動向次第では「やっぱり夢は追わないほうがいいや」って思われるかもしれないし、本音を言えば、どうなるかはわからない。だからこそ、あえて夢を発信することで、自分に発破をかけている部分もありますね。

――LDHのアーティストさんは、ヴィジョンシート(自分が数年後に実現したいことを記したもの)を作って活動されていることも知られていますし、有言実行のイメージが強くあります。

小林:言われてみればそうですね。EXILEや三代目やLDHの根底には、夢への過程も含めて全て共有して、ファンの方に一緒に歩んでもらうスタイルがあるので、どちらかといえば有言実行だと思います。でも、グループでは有言実行してきたつもりですけれど、僕自身は、有言実行な時もあれば、無言実行や無言不実行の時もありました。

――たしかに、直己さんが急に笑わなくなった時は驚きました。今日、笑顔でお話できてよかったです(笑)。

小林:あははは。そう考えると、笑顔を封印していた頃の反動もあるのかもしれませんね。自分の中でそういった自分を知るためのさまざまな過程があり、今は積極的に、当時考えていたことや今自分が考えていることを共有したいと思っているので。それはこの10年で特に変化したところだと思います。

――では、話を“夢”に戻して。夢を叶える上での厳しさについては、どのような点が厳しいと感じますか?

小林:まず、自分が抱いている夢を他人に伝えることが壁ですよね。自分が夢を言葉にすることにもハードルがあるし、相手が理解してくれるかどうかもハードルがある。また、コロナ禍で状況が一変したことで、自分も含め、夢の形が変化した人も多いのかなと思います。夢を叶えるタイミングが先延ばしになった方もいれば、逆に早まった方もいるでしょうね。人間関係や環境の変化もたくさんあって、その結果、悔しい想いをしている方もいるかもしれません。でも、どんな状況であれ、1つひとつ夢を形にしていっている人に僕は惹かれますし、“夢は必ず叶う”とは言わないけど、夢を叶える方法は必ずあると信じたい。それは夢を追う厳しさを痛感した過去があるからこそ、言えることだと思いますが、やりたいことにまっすぐ生きてもいいんじゃないかなぁと、今の僕は思っています。

――実際、直己さんも本文に「もっと海外の作品に出演したい」とか「格好いいおじいちゃんになりたい」とか、たくさんの夢を書いていましたね。

小林:バケットリストですね。本に書いたのに叶わなかったら恥ずかしいなぁ(笑)。

――実際に叶えるために、すでに準備をしているものもあるんですか?

小林:現実的に動いているものもあれば、そうじゃないものもあります。というのも、この本を出す時に伝えたいなと思っていたことの1つに、僕のイメージを少し変えたいというのがあったんです。ありがたいことではあるんですが、僕はすごく真面目に思われることが多くて、ポジティブな良い人と思われているふしがあるんですよね。でも、不真面目でだらしない自分もいるから、一度その部分をさらけ出してみよう!と。そんな気持ちから、書いた夢や文章もあります。だから、それを見て自分もやってみよう!と思ってもらえたらいいなと思う反面、実際に自分がその夢を叶えられるかどうかは、自分次第だなと思っています。


――ご自身も、他の方が書かれた本を読んで影響を受けることはありますか?

小林:本に限らず、映画などもそうですが、僕は結構のめり込んで読むタイプなので、影響を受けていることもあると思います。たとえば、浅田次郎さんの『壬生義士伝』という作品の主人公・吉村貫一郎は、愛に生きた侍なんですが、その生き方がすごく素敵だなぁと思いますね。もし自分がその時代に生きていたとしたら、その時代で“当たり前”とされているものを壊して、自分の大切にしたいと思うものを大切にできていただろうか……とか考えたりします。自分が解説文を書かせていただいた『主君 井伊の赤鬼・直政伝』(高殿 円 著)も、作中における“絆”を考えた時にEXILEになぞらえて書いたりしました。そうやって作中のキャラクターと自分を重ね合わせて考えることが多いです。

――作品に深くのめり込める能力は、俳優としての強みでもあるのでは?

小林:そうですね。のめり込んで吸収したものを、技術としてちゃんと表現していけたらいいなと思います。

――では最後に、これから『選択と奇跡 あの日、僕の名字はEXILEになった』を読まれる方にメッセージをお願いします。

小林:僕の好きな本に『ニューヨークのとけない魔法』(岡田光世著)という作品がありまして、そこにはニューヨークの街で起こる出来事がショートストーリーとして収録してあるんですが、僕がその本を読んでいた時は、朝パッと開いたページのショートストーリーを読むようにしていたんですね。そういう感じで『選択と奇跡 あの日、僕の名字はEXILEになった』も、自分が伝えたいことを短いトピックにまとめて伝えているので、どこから読んでも楽しめる1冊になっていると思います。どこから読んでいくかもまた1つの“選択”ですし、日々誰もが選択をしながら生きているので、そこから生まれる奇跡を見つめ直すキッカケが作れたら幸せです。難しく考えすぎず、気楽に読んでいただければと思います。

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2021年12月18日(土)23:59まで

■書籍情報
『選択と奇跡 あの日、僕の名字はEXILEになった』
著者:小林直己
出版社:文藝春秋
発売日:2021 年11月 24日
定価:本体 1,800 円+税

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