映画監督・ふくだももこが語る、小説『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』の衝撃 「宝物みたい」

“傷つけるかもしれない”根は根こそぎとる

ーーふくださんは創作活動のなかで、「傷つけないこと」や「やさしさ」を意識されますか。

ふくだ:監督や著者という立場なので、どうしたって自分の責任になるし、意識的にそこまでやるべきやと思ってます。配慮というか、“傷つけるかもしれない”根は、根こそぎとるっていう作業をしまくって、しまくってしまくってから、外に出すべきとは思ってます。

ーー自己表現と配慮のバランスは難しいのではないかと想像するのですが、表現する上で窮屈に感じてしまうことはないですか?

ふくだ:それはないです。でも学生の時に撮った映画とか、今だったら絶対撮らないですが、あの時私にはあれを撮ることが必要やったと思うことはあります。それに、まだまだ配慮できてない時、いっぱいありますね。

ーーちなみに、“根こそぎとる作業”とは具体的にどういうことをやられていますか? そのほかに気をつけていることなどもあれば教えてください。

ふくだ:全部のト書き、全部のセリフに対して「これを言った時にどういう人が傷つく可能性があるのか」を考えるようにしています。これがやさしさなのかはわからないですが、自分の作品でお客さんに傷ついてほしくないという気持ちからですね。たとえば犯罪者のキャラクターがいたとして、できるだけ一面的にさせないようにしてたり、話を盛り上げるためだけにキャラクターに喧嘩をさせるとかもできるだけしないってことも意識しています。それって展開も早くなって一番簡単で、本音も語ってくれるから作者としては楽なんですけど。

ーー小説だとキャラクターの心理状態や多面性が分かりやすいですが、映画だと難しそうですね。

ふくだ:難しいです。最新作の『ずっと独身でいるつもり?』にも、子育て夫婦の夫で、一見すると育児に関わってるように見えるんだけど、おむつ替えは妻にやらせる……とか、そういうキャラクターがいたんです。その役の俳優さんが本読みの時に、「まったく家庭に興味がない」というような芝居をしてはったんです。そういうキャラクターを、ディスるために生み出すことは簡単にできるし、ただそういう人物ですと演出することも簡単なんですけど、私は俳優さんに「彼は彼で男社会に生きている人で、妻のこと、家庭のことを鑑みる余裕がないと思っていてほしい」と伝えました。俳優さんはわかってくれて、芝居も全然変わりました。本当にちょっとしか出てこないキャラクターだけど、そういうディスカッション、作業をするかしないかだと思います。

次世代へのバトンのような想い

ーー最近は女性の監督の活躍もどんどんと増えてきて、その第一線で活躍されているふくださんの姿を頼もしく見ています。

ふくだ:最近は自分が頑張ることで、次の世代の子が理不尽な思いや、不当な扱いをされることが減るといいなって思ってます。

ーー大前さんも絵本制作などにも取り組まれていて、そういう次の世代へのバトンのような想いがあるように感じます。

ふくだ:大前さんの作品は、小説やのに突然「七森は超嬉しい」とか書いていたりとか、ネットやSNSに触れてきた子たちなら若い子でもかなり読みやすいと思います。余談ですが、私も大前さんが主に活躍している「文藝」に作品を寄せた時、今っぽい言葉というか、飛び跳ねた言葉を使ってもいいかなって、ちょっと挑戦的に使ってみたけど全く直されなかったんです。そういう柔軟なところが今「文藝」が注目される所以かなと思いました。大前さんが出してはる絵本『ハルにははねがはえてるから』と短編集『岩とからあげをまちがえる』は、子どもが少し大きくなったら絶対に一緒に読みたい。その時間が、また私にとっての宝物になると思います。

ふくだももこ 最新作情報

『ずっと独身でいるつもり?』
11月19日(金)全国ロードショー
主演:田中みな実、市川実和子、松村沙友理、徳永えり、稲葉友、松澤匠、山口紗弥加、藤井隆、橋爪淳、筒井真理子
原作:おかざき真里(原案:雨宮まみ)『ずっと独身でいるつもり?』(祥伝社フィールコミックス)
監督:ふくだももこ
脚本:坪田文
音楽:池永正二(あらかじめ決められた恋人たちへ)
主題歌:にしな「debbie」(WARNER MUSIC JAPAN)
制作プロダクション: ダブ
企画・配給:日活
(c)2021 日活
公式サイト:https://zuddoku-movie.com 
公式Twitter:https://twitter.com/zuddokumovie 
公式Instagram:https://www.instagram.com/zuddokumovie

映画『ずっと独身でいるつもり?』本予告

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