『婚姻届に判を捺しただけですが』ふいキュンと『逃げるは恥だが役に立つ』ムズキュンの違いとは?
夫婦として距離を縮めるふたりから覚える「キュン」
「逃げ恥」の「ムズキュン」に対し、「ハンオシ」の「ふいキュン」は本作のどんなところを象徴しているのか。考えるための手がかりとして、公式ホームページに設置された「キュン♡ボタン」の存在が挙げられる。
ドラマの初回が放送されたあと、公式Twitterでは放送中に視聴者が「キュン♡ボタン」ボタンを押した回数の集計が公開された。第1話において視聴者が最も多く「キュン♡ボタン」を押した瞬間は、百瀬が夫婦喧嘩の原因となった目覚まし時計の乾電池を大加戸に手渡すシーンだったのだ。
まるで結婚指輪を渡すかのように、大加戸の手のひらに乾電池が置かれたシーンは、第1話において大加戸と百瀬の距離が最も接近した瞬間であったと感じる。偽りの夫婦として別々の方向を見るふたりが、ごくまれに急接近する瞬間に不意を突かれ、視聴者の胸が高鳴る。それこそが本作を象徴する「ふいキュン」なのだろう。
対立する異性が距離を縮める様子を描いた作品は多く存在する。しかし本作は夫婦というシチュエーションだからこそ、大加戸と百瀬は一緒に暮らすためにお互いを尊重しようとする。ゆえにふたりの姿からは人と人がわかり合うことのむずかしさを覚え、ふたりの距離が近づいたときに感じた「キュン」からは、達成感に近い感覚を得るのである。
本作から芽生えた「キュン」は好きということに気づいてもらう恋や大切な人を守りたいという愛を描いた作品、そして「逃げ恥」とも異なる胸の高鳴りであった。原作で大加戸が思う「夫婦ってなんなんだ⁉」という問いに共感を覚える人は、本作から問いを考えるヒントが見つかるはずだ。