『ハイ☆スピード!』から『DIVE!!』まで ”水泳”をめぐる名作小説&ライトノベル4選

猛練習の間はプールサイドでおしゃべり 比嘉智康『泳ぎません。』

比嘉智康『泳ぎません。』(MF文庫J)

 比嘉智康の『泳ぎません。』は、タイトルどおりに泳ぐ描写が一切なし。キツい練習の間に、水泳部員の女子高生たちが何をしているのかだけが描かれる。

 コースロープを外したプールにビニールボートで浮かぶ。プールサイドにシートを広げて日本茶を嗜む。通販で買った1万円の水遁の術セットで水の上を歩き回る。3人の部員が好きなことをしてクールダウンに勤しみながら、放課後に3時間も番組を流す迷惑な放送部とか、美しさを追求する美容研究部グラマー&プリティといった、ユニークすぎる他の部活動の話に花を咲かせる。女子高生らしく恋バナも。

 これだけリラックスできればきっと成績もいいはずだろう。泳がないので分からないけれど。オリンピック選手たちもこんなクールダウンをしているのかな。

1.4秒に全てをかける飛び込み競技 森絵都『DIVE!!』

森絵都『DIVE!!』

 林遣都や池松壮亮の出演で映画になり、テレビドラマにもなりテレビアニメも放送された『DIVE!!』がテーマにするのは、競泳ではなく飛び込み競技。高さ10メートルから時速60キロで落下する、わずか1.4秒の間の演技にかける中学生や高校生のダイバーたちの熱い思いに触れられる。

 経営難で、次のオリンピックに代表を出さなくては潰れてしまうダイビングクラブが舞台。平凡な選手だったが、コーチに体の柔軟さと一瞬を見逃さない動体視力を見いだされ、急成長していく坂井知季や、海に向かって飛び込み鍛えた豪快さで見せながら、重大な欠陥を抱えた沖津飛沫の苦悩を通して、一瞬の演技にこめられたダイビング競技の神髄に近づきたい。

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