二股ではなくどちらも本命? 斬新ラブコメ『カノジョも彼女』が描く、恋愛の新境地

 世間一般的に「二股男」と言えば、どのようなイメージがあるだろうか。「不誠実」「嘘吐き」「愛がない」など数々の罵倒が並べられるだろうが、直也の性格はその正反対といえる性格だった。直也が二股を始めたのは、彼が誠実すぎるが故なのだ。

 もちろん二股を断固拒否する咲に、直也は「水瀬さんに惹かれたのに常識だからとフる行為は、自分にも咲ちゃんにも嘘を吐くことになる」と真っ直ぐ語る。自分の気持ちを押し殺し渚をフりもせず、咲を騙し秘密で二股をするでもない直也の姿勢から、彼の変人とも言うべき真面目さが見て取れる。そして最後には「二股して良かったって、いつか必ず言わせてみせるから!!」と土下座までした直也。そしてその後の直也の振る舞いも何とも誠実で、無茶苦茶な展開にも関わらず作品はしっかりと王道ラブコメをしている。一般的には考えられない提案をされた咲も、彼の誠実さや裏表の無さを理解しているため恨むような負の感情は抱かない。この秀逸な「真面目すぎるが故の二股」というトンデモな設定が、本作を少年誌でのラブコメ人気作へ押し上げているのだ。

 「週刊少年マガジン」では『五等分の花嫁』が記憶に新しい、「ハーレム漫画」と呼ばれるジャンル。魅力的なヒロインが何人も登場し、主人公が最後に誰を選ぶのかドキドキと見守る。漫画が完結すれば、選ばれなかったヒロインの心情に想いを馳せ、哀愁に浸るのもまた一興だろう。

 このように従来のハーレム作品の縦軸は、「主人公が誰を選ぶのか」だった。しかし『カノジョも彼女』は、遂にこのハーレム漫画の縦軸を、「主人公がどうやって2人とも幸せにするか」に変化させたのだ。しかしこの奇天烈な設定で2人を幸せにすると誓った直也だが、正直その結末は未だ全く予想できない。本当に何らかの方法で2人とも幸せにしてしまうかもしれないし、もしかしたら悲しい結末を迎えるのかもしれない。つまり本作は醍醐味である結末への期待を含ませながら、ハーレム作品ジャンルに新たな風を吹き込んで見せたのだった。

 斬新なテーマとコメディタッチの強さで、今や「週刊少年マガジン」の看板を守る1作となった『カノジョも彼女』。二股を軸に進むストーリーはもちろん、軽快なテンポやヒロイン達の可愛さも本作の魅力である。遂に放送開始されたアニメでも、その魅力は存分に発揮されていた。アニメを観て本作に興味を持った人は、続きを期待すると共に、ぜひ原作にも手を伸ばしてみてほしい。

■青木圭介
エンタメ系フリーライター兼編集者。漫画・アニメジャンルのコラムや書評を中心に執筆しており、主にwebメディアで活動している。

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