児童文学に学ぶ、“ジェンダー問題” 子どもたちに今、伝えるべきメッセージとは?

誰もが納得して生きるために必要なもの

 梨屋アリエ『きみの存在を意識する』(ポプラ社)には、人には気づかれにくいさまざまな困難をもった中学生が登場する。言葉を耳で理解するのは簡単なのに、どうしても長い文章を読むことができない子。自分に「性」があることに違和感を覚えている子に、化学物質の入ったにおいに敏感すぎて体調が悪くなってしまう子。

 全部ができないわけじゃない。特定のことだけだから、本人すら「自分の努力が足りない」「我慢が足りない」と責めてしまうし、周囲からは馬鹿だと思われてしまうし、特別措置をとれば「ずるい」と責められる。けれどそうではなく、世の中には思いもよらぬ、どうにもならない困難がさまざまに存在し、最善の選択肢はそれぞれ違うのだと教えてくれる『きみの存在を意識する』だが、「できない人には寄り添いましょう」というのではなく、ずるいと思ってしまう側の気持ちも丁寧に掬いとっているのも、とてもよかった。

 実際問題、輪を乱されて、迷惑をかけられて、自分だって我慢して一生懸命やっていることを、障害だからといって特別扱いされて、免除されているのを見たら、腹も立つだろう。ちゃんと手を差し伸べたいし、“いやな人”になんてなりたくないのに優しくできない、そんな自分に“させられる”ことでよけい、相手にむしゃくしゃしてしまう。どうしてちゃんとできないの? といっそう、責めてしまう。そんな黒い感情に、覚えのある人は多いはずだ。本作は、異なる他者がともに生きることのとほうもない難しさをきれいごと抜きで描き出し、かつ、どうすれば手をとりあえるのかを真摯に問いかけてくる。

 前2作が少女たちを中心に描かれるのに対し、ポプラズッコケ文学賞新人賞大賞受賞作の『ライラックのワンピース』(小川雅子)は、サッカー少年かつ裁縫少年のトモが主人公。とある女の子の大切なワンピースをリメイクする大役と、サッカーの大事な試合が重なってしまい、どちらを優先すべきか迷うところも読みどころ。個人的には、大学で学ぶ夢をあきらめクリーニング職人になったトモの祖父が、結果的にふたつの夢をつなげて、自分に誇れる“今”を生きていた、というエピソードがとてもよかった。誇れるのは、すべて祖父が自分で納得して選んだ道だからだ。

 誰もが納得して生きるためには、女だからとか男だからとか、みんながそうしているからとか、そんな誰かが決めた基準で、選択肢を奪われるようなことがあってはならない。けれどうっかりすれば自分も、勝手な思い込みで誰かの選択肢を奪ってしまいかねない。だから、誰かが訴えかける言葉をこうして物語の形で受けとり、自分の知らない誰かが存在することを知っていかなければならないのだと思う。

■立花もも
1984年、愛知県生まれ。ライター。ダ・ヴィンチ編集部勤務を経て、フリーランスに。文芸・エンタメを中心に執筆。橘もも名義で小説執筆も行う。

■書籍情報
『わたしの気になるあの子』
作:朝比奈蓉子
絵:水元さきの
定価:本体1,400円
公式サイト

『きみの存在を意識する』
作:梨屋アリエ
定価:本体1,500円+税
公式サイト

『ライラックのワンピース』
作:小川雅子
絵:めばち
定価:本体1,400円+税
公式サイト

※すべて、ポプラ社刊

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