『転生したらスライムだった件』誕生の裏側とは? GCノベルズ編集長・伊藤正和インタビュー
大事なことは主人公のキャラクターが面白いかどうか
――GCノベルズの立ち上げ時は、ほかにも声をかけられていったんですか。
りゅうせんひろつぐ先生の『賢者の弟子を名乗る賢者』も割と初期に声をかけていた作品です。ほかにもいろいろとお声がけはしていて、レーベルとして展開するなら、最低でも月に1冊は出す必要があるだろうと思っていました。自分ひとりでやるものだったので、月に1冊か2冊が限界で、手当たり次第ではなかったです。自分で読んで面白いものに声をかけていました。
――声がけする決め手のようなものはあるんですか?
僕は割と、主人公のキャラクターが面白い作品を選びがちですね。癖がある主人公が好きなんです。異世界転生ものって、一人称で主人公が物語を動かしていくところがあるので、主人公の声を読者さんは読んでいることになります。主人公があまり面白くないと、面白くない人間の語りを聞いている感じになりますから。
――GCノベルズは今はどういった感じですか。
『賢者の弟子を名乗る賢者』のアニメ化企画がぼちぼちと動くので、それで認知度をワンランク上げたいですね。三嶋与夢先生、孟達先生の『乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です』や槻影先生、チーコ先生の『嘆きの亡霊は引退したい ~最弱ハンターによる最強パーティ育成術~』も上げていきたい。他にも、コミックスで売れている作品があるので、その売り上げをベースにメディア展開を広げて、小説の認知度を更に上げられないかと考えています。あとは、大判だと読者とのマッチングが悪かったのを文庫で出し直したりとか。
――売れ行きが悪いからといってバッサリ切らず、いろいろと展開を考えてあげるのは優しいですね。
自分が面白いと思っている作品は、売れるべきだと思っているんです。ダメだったからそれで終わりにしたくないんです。きっと嫌なんですね、自分が良いと思った作品が認められないというのは。編集として作家には厳しいことも言ってしまいますが、でもやっぱりどこかにチャンスはないかと考えてしまいます。
――ライトノベルは中高生が読者層の中心だと言われていますが、GCノベルズはどうでしょう。
どこも同じだと思いますが、新文芸をやっているところは読者層が高いイメージがありますね。こちらでも30代や40代をイメージしています。大人向けなのに、主人公が大人のようなことをしていないといった批判がありますが、そこが良いんじゃないかと思います。転生でも転移でも、現世とは隔絶されたところに行ったら、そこで自分の年齢らしいことをするんでしょうか。誰もが自分の実年齢の枷から外れたいんじゃないでしょうか。そういった、自分を解放してくれるものとして読まれているといことも、一部にはあるんだと思います。
――『転スラ』が売れてしまったが故に、異世界転生ものが中心のレーベルと思われてしまっている感じですか。
ここのお客さんは口が異世界物になっているから、現代ものをやっていても厳しいと書店員さんやバイヤーさんに言われることがあります。実際、B6判の市場だと転生ものとかVRMMOものといったもの以外にあまり需要がないんです。挑戦はしたんですよ。GCノベルズでいうと、竹内すくね先生の『ブルージャスティスここにあり!』ですが、異世界ものでもなんでもなくて、ヒーロースーツを着て戦う主人公のお話です。本当に面白かったのに、2冊しか出せなくて自分でもふがいないと思いました。
――レーベルも増えて、書店の棚も作家の方も取り合いになっていて大変そうです。GCノベルズではどのように作家とお話しされているんですか。
最近は声がけも早くなっていて、人気が出たなと思った時にはもう声がかかっています。うちは面白いかどうかを読んで判断しているところがあって、出だしだけでは判断できないので様子を見てしまいます。それで、先見の明のある方に取られていく感じはあります。作家先生とのやりとりは、リアルな話になってしまいますが、その作品に自分たちがどこまで投資できるかです。基本的には頑張って交渉させていただきますが、相手のおっしゃることで受け入れられることは受け入れ、そうでなければ他社でやられた方が幸せになってもらえると思い、諦めます。