BLの原点は“美少年漫画”にアリ? 『リボンの騎士』から70年、少女漫画の変遷

 それにしても作品セレクトが、相変わらず凄い。たとえば“寄宿男子校漫画”では、まず「別冊マーガレット」1973年10月号に掲載されたまま単行本未収録の、忠津陽子の「ブルーメロディー」が取り上げられている。たまたま当該号を所持しているので久しぶりに読み返したが、どちらかといえばテーマは親子関係であり、男子生徒同士の感情の綾はフレーバーといったところだ。ただし現在から振り返れば、こうした作品から徐々に美少年漫画が増え、やがてBL作品に繋がっていったことが窺える。今、忠津作品を改めて取り上げる意味は十分にあるのだ(それはそれとして忠津作品、単行本未収録が多すぎる。どうにかならないものか)。

 また、「少年合唱団」を題材にした作品の紹介では、たらさわみちの『バイエルンの天使』、竹宮恵子の『ウィーン幻想』は当然として、水上澄子の『リンデングリーンの小鳥たち』までカバーしているのが嬉しい。

 もちろん基本というべき作品も、きっちり押さえられている。水野英子の『ファイヤー』、岸裕子の『玉三郎』シリーズ、名香智子の『花の美女姫』、魔夜峰央の『パタリロ!』、森川久美の『南京路に花吹雪』、秋里和国の『TOMOI』……。『ファイヤー』以外はリアルタイムで読んでいるが、どれもこれも面白かった(エイズを扱った『TOMOI』は、面白いというより衝撃的だった)。本のタイトルに“美少年漫画”とあるために、購入を躊躇する人もいるかもしれないが、1970~80年代の少女漫画が好きならば、大いに楽しめる1冊なのである。

 さらにインタビューや対談も見逃せない。魔夜峰央と山田マリエの父娘対談。笹生那実とbelneの腐女子対談。どちらも面白い。そして、これだけで本書を買う価値があるといいたくなるのが、元「JUNE」編集長・佐川俊彦へのインタビューだ。ちなみに「JUNE」は、その後のBL作品の誕生に大きく寄与した耽美雑誌。ただしサブカル要素も強く、誌面はゴッタ煮感があった。何号なのか忘れたが、私はある記事が読みたくて「JUNE」を購入し、なぜかしばらく買い続けていた。往事茫々である。それだけに佐川元編集長の話す雑誌の内実が興味深い。「BLという言葉は、JUNEという言葉では当てはまらなくなってきたから普及したんだと思います」といった、クレバーな分析も、大いに傾聴すべきものがある。今後の少女漫画の歴史を振り返るとき、本書の価値は高いのだ。だからオフィスB.Jには、これからもさまざまな切り口で少女漫画を語るガイドブックを、作り続けてほしいのである。

■細谷正充
 1963年、埼玉県生まれ。文芸評論家。歴史時代小説、ミステリーなどのエンターテインメント作品を中心に、書評、解説を数多く執筆している。アンソロジーの編者としての著書も多い。主な編著書に『歴史・時代小説の快楽 読まなきゃ死ねない全100作ガイド』『井伊の赤備え 徳川四天王筆頭史譚』『名刀伝』『名刀伝(二)』『名城伝』などがある。

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