印度カリー子 × 幸村しゅうが語る、スパイスへの飽くなき好奇心 「普通のご飯食べてもなんにも楽しくない」
黒胡椒振るような感覚でターメリック使ってみよう
ーーカリー子さんのお弁当レシピ本『一肉一菜 スパイス弁当』はスパイス1種類でもできるレシピもたくさん載っていますね。
カリー子:日常使いのためのレシピにしました。カレーのレシピが少ないのは、実際にカレーを職場に持っていける方って少ないだろうと思ったからです。印度カリー子でさえ、大学にカレーを持っていくとかなりいろいろなことを言われるのに、普通のOLさんが職場に持って行ったら好奇の目に晒されてしまうじゃないですか。でもやっぱりスパイス好きの人にとっては、普通のご飯食べてもなんにも楽しくないんですよ。
幸村:(笑)。
カリー子:「カレーじゃないのに超スパイシー!」みたいなおかずにしたかったんですよね。スパイスは調合されてなんぼって思われがちなんですけど、そうじゃないよ、黒胡椒振るような感覚でターメリック使ってみようよ、というところから幅広く載せました。
ーー幸村先生はお弁当を作ったりしますか?
幸村:作らないです。でもこの本に掲載されている料理は、夕飯のおかずとして作って食べています。実は今ダイエットしているんですけど、ダイエット料理って物足りないんですね。でもスパイスを使うと、満足度が非常に高い。よく作るのは「爽やかカルダモンチキン」、「ふわふわサラダチキン」。一番好きなのは「まるごとピーマンの肉詰め」です。
カリー子:わ〜。全然ダイエットじゃないですけど(笑)。
幸村:普通の肉詰めってソースとかケチャップで子どもっぽい味になっちゃったりするんですけど、これは肉をスパイスで揉み込んで、ピーマンに詰めて焼くので何もつけなくてもすごくおいしいです。
カリー子:これ私も超好きです。しかも冷凍保存できるんですよ。5つくらい作っておいて、1個1個食べるのがもうほんっとに幸せ。
幸村:私8個作っちゃった(笑)。大好きすぎて。
「タクコ」でスパイスカレーは作れる!?
ーーカリー子さんはそもそもどうしてスパイス料理研究家になられたのでしょうか?
カリー子:19歳の時に初めてスパイスカレーを作ったんですけど、その頃世間では本場を忠実に再現したものこそが至高であるっていう考え方が強かったんです。「チキンカレー」でも数多作り方がある。それだけアレンジ性が豊かっていうことは、ベースとなるものがあって、そこから発展させているに違いないな、と考えました。
それこそ今、私が声を大にして「タクコ」、ターメリック、クミン、コリアンダーさえあればスパイスカレーは作れるよって言ってるのは、その数多あるチキンカレーのレシピに共通しているスパイスが「タクコ」だったからなんです。最小限の「タクコ」と、あとは玉ねぎ、トマト、ニンニク、生姜、鶏肉。どこのスーパーにでも売っている安い材料で作ってみたら、カレーができてしまった。
自炊歴1年以下の貧乏学生が、普通のキッチンで、スパイスからカレーを作ってしまった時の感動たるや大事件ですよ! スパイスを調合しているときって、たとえ1:1:1でもなんだかすごく魔女感やワクワク感があったんです。
幸村:魔女感って、非常によくわかります。スパイスの瓶を並べて、一つ一つ舐めてみると、粉っぽくてちっとも美味しくない。むしろまずい。でもそれが混ざるとスパイスカレーになっちゃう。日本人てルゥに洗脳されてしまってますから、ルゥなしでカレーができちゃう驚きと喜びと感動っていうのはあると思うんですよ。それをカリー子さんは、すごーく裾野を広げて伝えてらっしゃるんじゃないかなと思います。
カリー子:そうかもしれません。私は19歳の時にスパイスというまったく磨かれてない原石を見つけたわけです。それまで将来の夢とか希望とかなくて、友達も少なかったし恋人もいなかったし、バイトもほとんどしてなかったし、サークルにも入ってなかったし、ホントにつまんない人生を送っていたんです。勉強しかしていなかったんですけど、スパイスカレーを作って初めて夢を持った。そしたらホントに毎日が楽しくて。新しいレシピを書いて伝えれば誰かが作ってくれるし……そういうのをずっと続けてたらいつのまにか肩書きがスパイス料理研究家に(笑)。
幸村:「できた!」っていう喜びや驚きって、すごく大きいよね~。
カリー子:たぶんそれは日常のキッチンで生まれてるから、なんですよね。いつものおうちにいて、新しい感覚や匂い、雰囲気、味、体験とか、それを一気に味わえるのがスパイスカレー作りなんだと思うんですよね。これはおいしいスパイスカレーをテイクアウトしても得られるものではない。味覚的な発見はありますけど、脳みそが歓喜する発見ではないんですよね。私がレシピばかり書いてるのは、一番最初の発見の感動が、キッチンにあったからです。その感動を共有したいのは、カレーを好きになろうとしている人ではなくて、普通の日本人の主婦なんです。なので、主婦の人が毎日作りたくなるような、作っていて苦にならないような塩や油の量とか、そういったところをケアしたレシピになっていると思います。