カレーに人生を捧げた少女の物語とは? 青春カレー小説『私のカレーを食べてください』のスパイシーな魅力

 「カレーは読みもの」。読後、胸いっぱいに広がったこの言葉をつい声に出して言いたくなったのが、第2回「日本おいしい小説大賞」を受賞した『私のカレーを食べてください』(幸村しゅう/小学館)。本作は、カレーに人生を捧げた少女が織りなす、愛おしく痛快な青春カレー小説である。

 表紙を彩るまばゆいばかりのイエロー。飯テロレベルにおいしそうなカレーのイラストに描かれるのは、キーマカレーに3片のお肉がプカプカ浮かんだチキンカレーのあいがけプレート。一目見て、カレー好きの胸がざわざわ躍った。「これは、おいしくて面白そう」。手にして読んで、その予感は的中した。

「あなたは、これから別のところで暮らすのよ」

 物語の主人公・山崎成美は、両親の離婚と育ててくれた祖母の失踪を経て、小学生で天涯孤独の身となり、児童養護施設に引き取られる。

 施設に行く前の晩、成美は学校の担任の先生から一皿のカレーを振舞われる。子どもにはちょっと敬遠されそうな、スパイスが香り立つ本格的なカレーだ。

スプーンを握りしめた私は、口を大きく開けてカレーライスを頬張った。次の瞬間、口の中がカーッと熱くなった。あたふたしている間に鼻の奥に刺激が抜け、ごくんと飲み込むと、熱が出たときのようにどっと汗が噴き出した。

 辛いだけではなく、食欲を一気に目覚めさせ、後を引いてやまない初めてのスパイスカレー。この衝撃は子ども時代の成美の舌と心に強烈に焼き付き、のちに目指すカレーの原点となり、人生の支えとなる。

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