『MIX』はあだち充の集大成的作品か? 連載再開に感じた「高校野球」への特別な想い
あだち充の“本気”
2012年から連載が始まった『MIX』は、かの名作『タッチ』の続編的な野球漫画である。といっても、描かれるのは『タッチ』の時代からおよそ30年後の明青学園野球部であり、(多くのファンが期待していたであろう)上杉達也や浅倉南の「いま」の姿を見ることはできない(過去の試合のビデオの映像などは時々出てくる)。
主人公は、立花投馬(弟・投手)と走一郎(兄・捕手)の兄弟バッテリー。また、ヒロインは、彼らの妹の音美という少女だが、投馬と、走一郎・音美の兄妹は、実は血がつながってはいない。つまり、彼らはいまの両親が再婚したがゆえに家族になったわけだが、この、(投馬と音美の)「血のつながらない兄と妹の微妙な関係」というものは、『みゆき』をどことなく思わせ、そういう意味では、本作は、(『タッチ』からの影響はいうまでもなく)「あだち充作品の集大成」だといえるかもしれない(タイトルの『MIX』とは、そういう意味か)。
物語は、投馬・走一郎の中学時代から丁寧に描かれていくのだが(注・同い年のふたりは同学年である)、先ごろ発売された17巻では、高校生になったふたりの2度目の夏――甲子園への切符をかけた東東京大会がますます盛り上がっている。
先に述べたように、この巻には連載再開後に描かれたエピソードが4話分収録されているのだが、休載前と比べて、何かが(たとえば、物語のテンポやキャラクターの印象が)大きく変わったということはない。プロの仕事、という意味では、これこそまさにプロの仕事というべきだろうが、それでも、連載再開第1回目(第97話「特別だよな」)をよく読んでみれば、淡々としたキャラクターたちの会話の中にも、「高校野球」に対する作者の「特別」な想いが込められているのがわかるだろう。
いずれにせよ、この『MIX』には、あだち充の“本気”が込められている。ラブコメの要素よりもスポ根のノリが強めなのもいい。立花兄弟の挑戦から、当分目が離せそうにない。
付記:『MIX』17巻には、作者の休載中の様子を描いたエッセイコミック(『リハビリ読切 足つりバカ日誌』)も収録されているので、そちらも併せて読まれたい。
■島田一志
1969年生まれ。ライター、編集者。『九龍』元編集長。近年では小学館の『漫画家本』シリーズを企画。著書・共著に『ワルの漫画術』『漫画家、映画を語る。』『マンガの現在地!』などがある。Twitter。
■書籍情報
『MIX(17)』
あだち充 著
定価:530円(税込)
出版社:小学館
公式サイト