『ONE PIECE』における“本物の仲間”とは? ウォーターセブン編の名シーンを考察

ウォーターセブン編の大きなテーマは「仲間」

 ウォーターセブン編の大きなテーマは「仲間」だ。東の海からウォーターセブン編まで、苦楽を共にしてきたルフィとウソップ。それに加えルフィとウソップはどこか似た者同士の気があり、シリアスな場面でもふざけ合い旅を心から楽しむ2人の姿は、どこか兄弟のようにも見えた。

 そんな2人の“本気の決闘”に、胸が苦しくなった読者も多いだろう。しかし特に注目して欲しいのは、ウソップの帰還シーンである。ウォーターセブンからの出港時、ウソップが一味に戻る気があることを知る一味メンバー。すぐに迎えに行こうとするルフィ達だが、ゾロはウソップから謝ってこなければ、仲間とは認め無いとこれを阻止。ゾロは一度決闘を行い一味を抜けた以上、筋を通すことを絶対としたのだ。

 そして最初こそ真意とは外れた行動を取っていたものの、最後はかっこ悪くとも心の底から謝罪を叫んだウソップ。ウォーターセブンは偉大なる航路“前半の海”最後の島であり、ここからの航海は生半可な覚悟では務まらない。そしてゾロを含む一味メンバーは、ウソップに筋を通すことを求め、ウソップはそれに見事応えて見せた。本物の仲間であるならば、ただの仲良しこよしではダメなのだ。このシーンは高みへと登り続ける組織の、“仲間の在り方”がよくわかる場面だった。

 またウォーターセブン編では、ロビンとの関係も大きな動きを見せることとなる。元々敵として出会ったロビンと麦わらの一味。ウォーターセブンまでのロビンには、どこか本心を曝け出していない節があった。そしてウォーターセブンにて市長暗殺の容疑を一味に被せ、姿を消してしまうロビン。一味を裏切ったかに見えたロビンだったが、実情は違った。ロビンはその逃亡人生で唯一仲間だと認められた麦わらの一味を、無事に島外へ出航させるために自身を犠牲にしていたのだ。そうと知ったルフィ達は、もちろん黙っていない。無事に航海を続けて欲しいと“表面上は”願うロビンを無視し、司法の島・エニエス・ロビーまで乗り込んでくるルフィ達。そして自分がいると世界政府に狙われ、迷惑がかかると叫ぶロビンを尻目に、一味は世界政府の旗を撃ち抜いて見せた。

『ONE PIECE』(44巻)

 普通であれば、自ら世界政府に喧嘩を売るような海賊団などいない。しかしルフィ達が目指す先は、普通の海賊団ではないのだ。ルフィに生きたいと言えと問われたロビンは、自身が生を望んで良いのかを考える。世界の破滅を望む“悪魔の子”と罵られ、生きる価値が無いと言われ続けてきたロビン。しかしロビンは、自身を守ってくれる仲間と出会うことができた。そしてロビンはこれまで胸の中にしまってきた“生きたい”という小さな望みを、大声で仲間に向けていたのであった。

 「ウォーターセブン編」にはその他にも“フランキーの過去”や“ゴーイング・メリー号との別れ”など、数多くの名場面が存在する。それを考慮してもウォーターセブン編では、特に「仲間」の存在が鍵となっていることに異論は無いだろう。仲間というものは、ときに衝突し、ときに厳しく、そして全幅の信頼を置くものだ。麦わらの一味はウォーターセブン編にて様々な困難に直面しながら、仲間との絆をより強固なものにし、次なる海へ進んだのである。

■青木圭介
エンタメ系フリーライター兼編集者。漫画・アニメジャンルのコラムや書評を中心に執筆ており、主にwebメディアで活動している。

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