『ONE PIECE』アラバスタ編はなぜ人気なのか? 痛快な”ジャイアントキリング”の魅力を考察

 アラバスタ編以前、連載当初の『ONE PIECE』には、無名海賊が強敵を打ち負かす、爽快感とカッコよさがあった。絶対に勝てないと周りに止められるルフィらが、とんでもない強さを発揮するあの痛快な姿を鮮明に思い出せる人も多いだろう。

 アラバスタ編は国家乗っ取りを企む王下七武海・サー・クロコダイルに麦わら海賊団が立ち向かう構成である。最弱と呼ばれるイーストブルーで結成された少数海賊団が、クロコダイル率いる大組織に肉薄していく姿。アラバスタ編以前から読んでいた読者からすれば、興奮しないわけがない。

 バロックワークスとの戦いにおいて、ルフィたち麦わらの一味は、それぞれがが己の限界を超えて死闘を繰り広げる。一味でも頼りないキャラだったウソップは、チョッパーと共闘しMr.4とミス・メリークリスマスのコンビを撃破。ダズ・ボーネスに歯が立たなかったゾロは、鉄を斬る力を会得し見事ダズ・ボーネスを討ち取った。さらにルフィは自身の血で、砂になるクロコダイルを固めて攻撃するという、めちゃくちゃな方法でクロコダイルに勝利。

 こうしてわずか6人という少数海賊団がバロックワークスという一大組織を壊滅させ一つの大国を救ってみせた。このルフィたち麦わらの一味が成し遂げた、作中最大とも言える“ジャイアントキリング”が、アラバスタ編最大の魅力なのだ。 

 またアラバスタ編人気の理由には、ビビの存在も大きい。ビビは麦わらの一味といくつかの航海を共にしており、チョッパーが仲間になった「ドラム王国」にも上陸している。ビビは冬島にて多くの見せ場を作っているが、ナミが体調を崩したときは、自身の目的よりナミの体調を優先し、ルフィが間違いを起こせば人の上に立つものとしての心構えを説いてみせた。

 それまでは自分勝手でわがままなお嬢様というイメージだったビビは、冬島にて、その真っ直ぐで思いやりのある性格を読者に知らしめた。つまり作者である尾田栄一郎はビビの実直な人間性と活躍を丁寧に描くことで、読者がビビを応援したくなるドライブ感の演出に成功したとも言える。

 麦わらの一味が強敵と戦う姿に感動した読者も多いだろうが、麦わらの一味はもちろん読者がビビを仲間と認めていなければ、命を賭けてアラバスタを救おうとするルフィたちの姿に共感できず、ストーリーにのめり込めなかったかもしれない。

 アラバスタ編の最大の魅力は、ジャイアントキリングにあることは前述した通りだが、ビビというキャラクターの存在が極めて重要だったと言えるだろう。

 ビビが麦わらの一味の仲間になるのではと期待した読者も多かったかもしれないが、一国の王女として国に留まることを決意したビビには引き際の美学を感じる。別れを告げるビビに仲間の印を掲げる麦わらの一味という構図は、感動的なシーンが多い『ONE PIECE』でも屈指の名シーンだ。

 無名海賊団が強敵を打ち負かすジャイアントキリングの爽快さ、麦わらの一味がビビと紡いだ絆の物語、その二つが読者である我々がアラバスタ編に強い魅力を感じる理由なのだろう。

■青木圭介
エンタメ系フリーライター兼編集者。漫画・アニメジャンルのコラムや書評を中心に執筆しており、主にwebメディアで活動している。

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