氷室冴子『ざ・ちぇんじ!』の革新性とは? 受け継がれる「とりかえばや物語」の魅力
なお同じ古典を題材にした漫画として、2012年から連載されたさいとうちほの『とりかえ・ばや』全13巻にも触れておきたい。こちらは『ざ・ちぇんじ!』よりも原典に近いストーリーとなっており、それぞれのアレンジの違いを読み比べるのも面白い。氷室版の帝は終始蚊帳の外に置かれた不憫なキャラクターだったが、『とりかえ・ばや』では少女漫画のヒーローらしい造形となり、ヒロインとのロマンスも魅力的に描かれている。
『とりかえ・ばや』を読むと、本作が現代的な感覚でアップデートされた「とりかへばや物語」であることを実感させられる。『ざ・ちぇんじ!』は80年代に発表された作品であるため、「おかま」の描写をはじめ、作中のジェンダー観やセクシャリティの描き方には、今日の視点からみると古さがあるのは否めない。とはいえ、そうした一面は『ざ・ちぇんじ!』の革新性や鮮やかさすべてを損なうものではないことも付け加えておきたい。
ところで、現在氷室冴子作品のうちコバルト文庫の主要作は電子化されたが、紙版で刊行された作品の多くは品切れで、入手困難な状況が続く。そうしたなか、12月16日に『さようならアルルカン/白い少女たち 氷室冴子初期作品集』(集英社)が刊行され、デビュー作や書籍未収録短編が復刊されたのは朗報だった。青依青のイラストが印象的なカバーも、これまでの氷室作品とは一線を画す雰囲気に仕上がっている。新しいパッケージによる氷室作品復刊の流れが、今後も続くことを期待したい。
■嵯峨景子
1979年、北海道生まれ。フリーライター、書評家。出版文化を中心に取材や調査・執筆を手がける。著書に『氷室冴子とその時代』や『コバルト文庫で辿る少女小説変遷史』、編著に『大人だって読みたい!少女小説ガイド』など。Twitter:@k_saga