『キン肉マン』ジャンクマンvsペインマン戦が証明した、不器用で愚直な戦いの熱さ

 プロレス的視点からキン肉マンの各シリーズのベストバウトを紹介するシリーズ。第4回は、完璧超人始祖編(コミック46〜60巻)より、以下の試合を取り上げることにした。

第1回:2000万パワーズ、“名タッグ”として語り継がれる理由
第2回:名勝負ブラックホールvsジャック・チー戦に見る、“別人格ギミック”の面白さ
第3回:大魔王サタンは「稼げるレスラー」である ジャスティスマン戦で発揮したヒールの才能

ジャンクマンvsペインマン

 プロレスラーなら誰しもが持っている、自身の代名詞ともいえるフェイバリット・ホールドは、レスラーとは密接不可分の関係である。当然試合はいつ、どのタイミングでフェイバリット・ホールドを繰り出し、決めるかということからの逆算で組み立てられていくことになる。

 多彩な技を持つレスラーは、よりフェイバリット・ホールドへと繋いでいくなかでバリエーション豊かな展開を見せることもできるが、逆に技が少ない、不器用なレスラーは己のストロングポイントのみを純粋に相手にぶつけ続けることでしか強さを表現できない。

 ただそんな不器用なレスラーもその不器用さゆえの真っ直ぐさがファンの支持を得る場合も多い。

 そこでジャンクマンである。

 悪魔六騎士の1人である彼が不器用であることはそのデザインを見ても明らかである。その両手では多彩な技などかけられるはずもない、かける必要もない。当然相手もジャンクマンが何をしてくるかは一瞬にしてわかる。それでもただひたすら、目の前の相手をその両手でクラッシュするのみ。ひたすら愚直である。初登場時はロビンマスクの老獪な戦法により惜敗するが、ロビンの鎧を破壊し、ロビンの肉体に大ダメージを負わせたそのジャンククラッシュの威力と、顔を含めた絵の描きやすさで、当時の子どもたちにも人気を誇っていた。

 そんなジャンクマンが数十年の時を経て、悪魔将軍に続いて悪魔六騎士の中で最初に完璧超人始祖と戦うという名誉な舞台を与えられることになった。

 しかしその相手は全ての衝撃を柔軟に受け止め吸収してしまう、全身エアバッグの塊である、完璧・伍式のペインマン。ジャンククラッシュという打撃(?)技しかないジャンクマンにとって、相性が悪いどころの騒ぎではない。戦う前に詰んでいる。

たった一つの技を使い続けるということ

 しかしそんな状況でもまったくひるむこともなく、ジャッククラッシュを連発するジャンクマン。当然にペインマンにダメージを与えることはできないが、それでもクラッシュしつづける。ほかにできることがないからだ。分かっていたけど不器用すぎる……。しかしその愚直すぎるその姿勢が、このあとジャンクマンを”奇跡の逆転ファイター”にするとはこのときは誰も予想していなかっただろう。

 ペインマンの攻撃にもはやKO寸前のジャンクマンは、空打ちを繰り返したジャンククラッシュが熱を持っているのに気づいた。なぜ空打ちをすると熱を持つのかは分からないが、とにかく熱を持っていた。そこでジャンクマンはさらにジャンククラッシュを連発、その熱で室温を上げようと試みた。なんのために? そう、ペインマンのエアバッグを熱膨張させるためであった! 空気を温めると体積が増える、これは小学校4年生の理科の授業で学ぶこと。さすが常日頃「10歳の子どもに向けて漫画を描いている」と言い続けているゆで先生。キン肉マンを読んで理科を学べる、教育漫画としての一面をこの大一番でさりげなく組み込んでくるとは恐れ入った!

 いや、読者の方の言いたいことは分かります。いろいろツッコミどころしかないのも理解しています。しかし、ジャンククラッシュに誇りを持ち、信じ、愚直に繰り出し続けたジャンクマンだからこそ生み出すことに成功した、まさに起死回生の一手であり、千載一遇のチャンスであった。熱膨張して柔軟性を失ったペインマンのエアバッグは、数億年のときを経て、いま初めてジャンククラッシュによって破られることになった。悪魔将軍にもなしえなかった偉業をジャンクマンが成し遂げたのだ。戦いを終えたペインマンは、ゴールドマンの弟子が自身を破るほどに成長していたことを素直に認め、称える。ジャンクマンの真っ直ぐさにゴールドマンの面影を感じながら。

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