『鬼滅の刃』不死川実弥、最大の強みは“優しさ”? 稀血を流し続けた漢が証明したもの

 いずれにしても、心が優しい人間から先に死んでしまうという悲しい現実を知っていた実弥は(矢島綾によるノベライズ『風の道しるべ』などを参照)、弟の“優しさ”を心配していたのである。だから彼に冷たくあたり、一刻も早く鬼殺隊を辞めさせようとしていたのだ。そんな兄に、ぼろぼろになっていまにも消えてしまいそうな弟はいう。「同じ…気持ち…なん…だ… 兄弟だから…(略)俺の…兄ちゃん…は… この世で… 一番…優しい… 人…だから…」。

 その言葉を聞いた実弥の目からは大粒の涙がこぼれ落ちるが、弟もまた、兄の優しさを知っていたのだ。兄自身がそれに気づいていたかどうかはわからないが、少なくとも、「風柱」の強さの秘密は、そのあたりにあるような気がしてならない。つまり、不死川実弥にとっては、“優しさ”は弱点ではなく、“武器”なのだ。そうでなければ、いくら鬼の動きが弱まるからといって、自分以外の誰かを守るために、自らの体を傷つけて、稀血を垂れ流すような戦い方は、いつまでも続けられるものではないだろう。そのことは、彼の体に無数に刻み込まれた傷跡が証明しているといっていい。

 そう――実は不死川実弥という鬼殺隊きっての乱暴者は、すべてをなぎ倒す荒々しい暴風などではなく、人々を優しく包み込むあたたかい風だったといっても過言ではないのだ。

【筆者注】本稿で引用した漫画のセリフは、読みやすさを優先し、一部、句点を打つなど、わずかに手を加えている箇所がございます。

■島田一志
1969年生まれ。ライター、編集者。『九龍』元編集長。近年では小学館の『漫画家本』シリーズを企画。著書・共著に『ワルの漫画術』『漫画家、映画を語る。』『マンガの現在地!』などがある。Twitter

■書籍情報
『鬼滅の刃(17)』
吾峠呼世晴 著
価格:本体440円+税
出版社:集英社
公式サイト

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