凪良ゆう&瀬尾まいこ、本屋大賞受賞者の新作が2作ランクイン 文芸書ランキング
週間ベストセラー【単行本 文芸書ランキング】(11月4日トーハン調べ)
1位『半沢直樹 アルルカンと道化師』池井戸潤 講談社
2位『アンと愛情』坂木司 光文社
3位『滅びの前のシャングリラ』凪良ゆう 中央公論新社
4位『月が導く異世界道中(15)』あずみ圭 アルファポリス 発行/星雲社 発売
5位『少年と犬』馳星周 文藝春秋
6位『気がつけば、終着駅』佐藤愛子 中央公論新社
7位『出遅れテイマーのその日暮らし(6)』棚架ユウ/Nardack イラスト マイクロマガジン社
8位『夜明けのすべて』瀬尾まいこ 水鈴社 発行/文藝春秋 発売
9位『転生したらスライムだった件(17)』伏瀬/みっつばー イラスト マイクロマガジン社
10位『転移先は薬師が少ない世界でした(4)』饕餮/藻 イラスト アルファポリス 発行/星雲社 発売
11月の文芸書週間ランキング、1位は先月と変わらず『半沢直樹 アルルカンと道化師』(池井戸潤)だが、注目は新刊小説。まずは2位の『アンと愛情』(坂木司)。最近では『赤毛のアン』を下敷きにしたカナダCBCとNetflixの共同製作ドラマ『アンという名の少女』が話題を呼んだが、こちらのアンはややぽっちゃりの主人公、梅本杏子(きょうこ)の愛称だ。だが『和菓子のアン』『アンと青春』という前2作タイトルからは、著者・坂木氏の『赤毛のアン』に対するリスペクトが感じられる。
内容はとくべつ『赤毛のアン』にちなんでいるわけではないが、アン・シャーリーが赤毛とそばかすに悩まされながら、親友をはじめとする多くの愛しい出会いを通じて自分の道を切り開いていったように、杏子もまた容姿にコンプレックスを抱きながらも、高校卒業後に働くことになったデパ地下の和菓子屋で一歩ずつ成長していく。その過程をただのお仕事奮闘ものとしてではなく、和菓子にまつわる日常ミステリとして描きだしていくのが本作の魅力。累計80万部を突破した人気シリーズ、2年ぶりの待ちに待った新刊とあって堂々ランクイン。刊行に際して寄せられた〈お菓子は、生きるための必須の要素ではありません。でも人はいつの時代もどこの国でもお菓子を作り、食べてきました。それはおそらく、お菓子が「心を生かすもの」だから。〉という著者の言葉が、響く。
続く3位は2020年本屋大賞受賞後第一作となる凪良ゆう氏『滅びの前のシャングリラ』。なんと発売前に重版が決定し、10万部を突破。いま読者がいちばん新刊を待ちわびている作家であることの証左といえるだろう。タイトルに「滅び」とあるように、同作の舞台は小惑星衝突による人類滅亡を1カ月後に控えた世界。最初は混乱していた人々も、やがて滅亡が本当だと知れると、法を無視して好き勝手な行動に出はじめ、窃盗や暴行、レイプがあたりまえになっていくなか、語り手となるのは現代日本に生きる4人の男女だ。
〈間違いだらけの人生をいまさらなかったことにもできないなか、その終わりが見えたとき、いかにして人は本来の自分に戻ることができるのか、希望を見出すことができるのか、というのを書きたかったのかもしれません〉と語る凪良氏は、作中で理性を失った獣と化した人々のことも決して否定はしない。追い詰められたときどんな行動に出るのか――個人の好悪と善悪は別問題だ。理性を手放してしまい暴動に流れることもまた選択のひとつであり、とくに無法化した世界では誰にも留めることはできない。ただ、そのうえで自分自身はどうありたいか。17歳、いじめられっ子の少年と、やや好戦的なその母。母と過去にかかわりのあったらしいヤクザ者の男と、誰もが名を知る日本の歌姫。それぞれがどんな道を選び、大切な人と己の矜持を守っていくのかを凪良氏は繊細な筆致で描きだす。そして物語を通じて、読者の私たちは、簡単には終わってくれない世界をどう生き続けていくべきかを考えさせられるのである。